クラウド経由での技術提供と輸出管理~リモート時代の見落としやすいリスクとは~ |通関士資格所有の輸出管理・税関事後調査に強い弁護士

クラウド経由での技術提供と輸出管理~リモート時代の見落としやすいリスクとは~

コロナ禍を契機に、リモートワークやクラウド共有が急速に浸透しました。そのため、研究データや技術文書のやりとりをオンラインで行うことは今や当たり前ですが、その一方で、クラウド経由での情報共有が「技術の提供」として外為法の規制対象になるという認識は、未だ十分に広がっていません。
今回は、クラウドやオンラインツールを介したデータの共有が輸出管理においてどのように取り扱われるのか、また、実務でどのような対応が求められるのかについて詳しく解説します。

クラウド共有が「技術提供」に該当する理由

外為法では、リスト規制等の対象となる技術を「外国に提供する行為」や「外国人(非居住者)に提供する行為」が『輸出』とみなされ、規制対象になります。
よく勘違いされるところではありますが、基本的には技術の提供方法に制限はなく、以下の手段も含まれます。

  • ①クラウドストレージ(Google Drive、Dropbox、OneDriveなど)へのアップロードと共有
  • ②オンライン会議(Zoom、Teams等)での仕様説明
  • ③ファイル転送サービスを通じた設計データの送信
  • ④ファイル共有サービス等へのコード・設計情報のアップロード

よくある誤解と実際のリスク

(1)『国内サーバーに保存しているから問題ない』は間違いです

実際には、外国人(非居住者)がそのデータにアクセスできる状態であれば、提供とみなされる可能性があります。
サーバーの所在地だけではなく、アクセス主体が誰かが重要です。

(2)『一時的な閲覧だけだから規制されない』は間違いです

技術の内容を一時的にでも閲覧・理解できる状態にした時点で「提供」に該当すると判断される可能性があります。。

(3)『相手が同じ企業の外国人社員だから対象外』は間違いです

外資系企業や、実質的に外国政府等の影響下にある組織の社員であれば、みなし輸出の対象となる可能性があります。

クラウド活用時の輸出管理対策

クラウド活用時には、次のような管理策を導入することが考えられます。実際の自社の運用状況を踏まえて、アレンジすることが推奨されます。

①アクセス制限の設定
外国人ユーザーに対して自動的にブロックされるような設定を用意
②クラウド利用ポリシーの整備
技術資料・設計図・コード等のアップロードルールを明文化
③対象ファイルのタグ付け管理
規制対象の可能性があるファイルには「該非判定済」「要確認」等のラベルを付ける
④社内研修とチェックリスト運用
担当者が判断に迷わないよう、クラウド共有の際の確認フローを整備
⑤外部の視点の導入
自社の管理体制について、外部の視点からの監査を受けることも重要です

弊事務所では、組織における安全保障輸出管理体制の構築サポートや、日常的な該非判定のサポート、外部監査の実施サポート等、幅広くサポートを行っておりますので、ご関心がありましたらお気軽にお問い合わせください。

この記事の監修者

代表弁護士 有森 文昭弁護士 (東京弁護士会所属)

ARIMORI FUMIAKI

東京大学法学部及び東京大学法科大学院卒。弁護士登録後(東京弁護士会所属)、都内法律事務所で執務。都内法律事務所での執務時に、税関対応・輸出入トラブルをはじめとした通関・貿易に関する問題、労働問題等を中心に100件以上の案件に携わる。その中で、通関・貿易に関する問題についてより広く網羅的な知識を取得し、より高品質なリーガルサービスを提供したいと考え、通関・貿易関係の国家資格である通関士の資格を取得。

この記事と関連するコラム


Warning: Trying to access array offset on false in /home/replegal/fefta-fa.com/public_html/wp-content/themes/export-duties/single-column.php on line 75

Warning: Attempt to read property "slug" on null in /home/replegal/fefta-fa.com/public_html/wp-content/themes/export-duties/single-column.php on line 75

外為法に基づく輸出許可申請に関して

外為法に基づき経済産業大臣の許可を得る必要がある場合、「申請にはどんな書類が必要なのか?」、「どれくらいの時間がかかるのか?」、「どこまで詳細に書く必要があるのか?」など、実務上の様々な疑問を抱える大学・企業のご担当者も多いのではないでしょうか。 今回は、みなし輸出の許可申請の全体像と実務的な対応フローについて、ご紹介いたします。 許可申請が必要となる場合 以下のような場合、みなし輸出と...

第三国を経由した技術・貨物の提供はどう規制されるか?

輸出管理の実務では、貨物や技術を直接的に海外に提供するだけでなく、「第三国を経由して」提供されるケースも増えています。 たとえば、A国の企業から依頼を受けてB国に輸出する、あるいは技術を一旦国外の自社拠点に送ってから、他国の顧客に提供するといったケースです。 このような間接的・多段階的な輸出は、意図しない違反リスクを発生させやすく、また、外為法だけでなく相手国の再輸出規制との関係も無視できず注...

経営層の責任とガバナンス強化~輸出管理はトップの意識が重要です~

輸出管理というと「技術部門や実務担当の仕事」と捉えられがちですが、組織の最終的な責任は経営層にあります。実際に外為法違反が発覚した場合、処分対象となるのは企業・法人としての組織であり、その法的責任は経営者に及ぶという点は改めて留意する必要があるでしょう。 経営者は「知らなかった」では済まされません 外為法では、企業が行う輸出・技術提供について、法人全体の責任が問われる構造になっています。違...

大学・研究機関における輸出管理の留意点 ― 学問の自由と安全保障の両立

輸出管理は企業だけの問題ではありません。 大学や研究機関においても、最先端の研究開発や外国人研究者との共同研究の場面では、常に「外為法」が適用される可能性を留意する必要があります。 特に無形の技術提供が輸出とみなされる点は、研究者にとって直感的に理解しにくいことも多く、違反リスクを高めてしまう一つの要因となっています。 本日は、大学・研究機関における輸出管理の特徴と、学問の自由を...

共同研究契約と輸出管理~資金源・契約条件のチェックが重要です

外為法に基づく安全保障輸出管理において、技術の提供先や用途を正しく把握することが極めて重要です。その判断を左右する要素のひとつが、「研究費の資金源」や「共同研究契約の内容」です。 特に大学や研究機関では、外国政府や企業からの研究費提供や、国際共同研究契約の締結が日常的に行われており、契約書の内容によっては『みなし輸出』に該当してしまうリスクが高まります。本日は、それらの観点から輸出管理に必要なチ...