3年前の無許可輸出が社内点検で発覚!? |通関士資格所有の輸出管理・税関事後調査に強い弁護士

3年前の無許可輸出が社内点検で発覚!?

【相談内容】

依頼者は、従業員数約50名の電子部品商社です。国内外のメーカーから電子部品やセンサー部品を仕入れ、国内顧客だけでなく海外顧客にも販売していました。大企業のように専任の輸出管理部門があるわけではなく、営業担当者と管理部門が日常業務の中で輸出書類の確認を行っている体制でした。

ある年、社内のコンプライアンス強化月間に合わせて、過去の輸出取引を点検することになりました。その過程で、3年前に海外へ輸出したセンサー部品について、当時の該非判定に疑義が生じました。

当時、依頼者はメーカー担当者から口頭で「この製品は非該当です」と説明を受けており、その説明を前提に許可を取得せず輸出していました。しかし、今回改めて仕様書や技術資料を確認したところ、当該センサー部品の一部性能が外為法上のリスト規制の規制値を超えている可能性があることが判明しました。

すでに輸出は完了しており、取引自体も数年前のものです。しかし、依頼者は「このまま放置してよいのか」「将来、税関調査や当局調査で発覚した場合、隠蔽と評価されるのではないか」「自主的に申告すれば、かえって大きな処分を受けるのではないか」と悩み、当事務所に相談しました。

本件は、輸出管理体制が十分でない中小・中堅企業で起こりやすい典型的な事案です。メーカーの口頭説明を信じたこと自体に悪意はなくても、輸出者として必要な確認を尽くしていなければ、無許可輸出という重大な問題につながり得ます。

【本件のリスク】

本件でまず問題となったのは、「本当にリスト規制該当品だったのか」という点です。リスト規制に該当する貨物を許可なく輸出していた場合、外為法違反として行政処分や行政指導の対象となる可能性があります。内容によっては、企業名の公表、輸出禁止、取引先からの信用低下など、事業への影響も無視できません。

特に本件では、次の事情がありました。

  • 輸出からすでに3年が経過していること
  • メーカーから正式な該非判定書を取得していなかったこと
  • 口頭説明のみを根拠に「非該当」と判断していたこと
  • 仕様書を確認すれば規制値超過の可能性に気づけたこと
  • 社内に明確な該非判定フローがなかったこと

一方で、依頼者にとって有利に評価され得る事情もありました。社内点検の過程で自ら問題を発見したこと、当局から指摘を受ける前に相談していること、輸出先が特定の懸念国ではなかったこと、故意に規制逃れをした事案ではないことです。

このような事案では、「何もしない」という選択肢が最も危険です。いったん社内で違反の可能性を認識した以上、そのまま放置すれば、後日発覚した際に「会社は問題を知っていたのに隠していた」と評価されるおそれがあります。単なる確認不足だった問題が、隠蔽の問題へと悪化してしまうのです。

【弁護士の対応】

(1)違反事実の法的評価と再判定

最初に行ったのは、当該センサー部品が本当にリスト規制に該当するのかを確認することでした。

輸出管理の相談では、社内で「違反かもしれない」と判断していても、技術仕様を正確に読み解くと規制対象外である場合もあります。逆に、メーカーが「非該当」と説明していても、仕様書や性能値を精査すると規制対象であることもあります。そのため、当局への申告を検討する前に、まず事実と法的評価を固める必要があります。

本件では、当事務所が依頼者から仕様書、カタログ、インボイス、輸出書類、顧客とのやり取り、メーカーからの説明記録を収集しました。そのうえで、技術的な知見を持つ外部専門家とも連携し、当該センサー部品の性能値が規制値に該当するかを再判定しました。

確認のポイントは、次のとおりです。

確認項目 確認内容
対象貨物 3年前に輸出したセンサー部品の型番・仕様
規制該当性 外為法のリスト規制に該当する性能値か
輸出実績 輸出日、数量、金額、輸出先、最終需要者
許可取得状況 当時、輸出許可を取得していたか
判断根拠 メーカーの口頭説明以外の資料があったか
主観面 故意・隠蔽・規制逃れの意図があったか

再判定の結果、当該製品はやはりリスト規制に該当する貨物であり、当時、必要な許可を取得しないまま輸出されていたことが確認されました。つまり、無許可輸出が行われていた事実は否定できない状況でした。

もっとも、この段階で重要なのは、過度に悲観することではなく、正確に事案を評価することです。本件では、故意に規制値を隠したり、虚偽の該非判定書を作成したりした事情はありませんでした。問題の本質は、メーカーの口頭説明を鵜呑みにし、自社として正式な判定書や仕様書を確認する体制を整えていなかった点にありました。

 

(2)自主申告方針の決定と経済産業省への事前相談

違反事実が確認された後、次に検討したのは、当局に自主申告を行うかどうかです。

依頼者は当初、「こちらから申告すれば、かえって処分されるのではないか」と不安を抱いていました。しかし、すでに社内点検で違反の可能性を把握している以上、放置することには大きなリスクがあります。将来、税関調査、取引先調査、メーカー側の調査、当局からの照会などをきっかけに発覚した場合、「発見後も申告しなかった」という点が不利に評価される可能性があります。

そこで、当事務所では、依頼者に対し、隠蔽した場合のリスクと、自主申告によって処分が軽減され得る可能性を説明しました。そのうえで、依頼者は自主申告を行う方針を決定しました。

対応の流れは、次のとおりです。

社内点検で疑義発見

        ↓

資料収集・再判定

        ↓

無許可輸出の事実を確認

        ↓

自主申告方針を決定

        ↓

経済産業省へ事前相談

        ↓

報告書作成・提出

        ↓

面談・追加説明

        ↓

再発防止策の実行

当事務所は、経済産業省の安全保障貿易管理課に対し、弁護士名義で事前連絡を行いました。いきなり不完全な資料を提出するのではなく、事案の概要、違反の可能性、現在確認できている事実、今後提出予定の報告書の内容を整理したうえで、適切な申告方法を確認しました。

自主申告では、スピードも重要ですが、内容の正確性も同じく重要です。拙速に「違反しました」とだけ申告しても、原因、影響範囲、再発防止策が整理されていなければ、当局から追加説明を求められ、かえって不安定な対応になります。そのため、本件では、事前相談と並行して、詳細な報告書の作成を進めました。

 

(3)「違反原因・再発防止策報告書」の作成

本件で最も重視したのが、違反原因と再発防止策を具体的に示すことでした。

当局対応において、「確認不足でした」「今後は注意します」という説明だけでは不十分です。なぜ確認不足が起きたのか、どの業務プロセスに欠陥があったのか、同じ問題を防ぐためにどのような仕組みを導入するのかを示す必要があります。

そこで、当事務所は、依頼者と協議しながら、「違反原因・再発防止策報告書」を作成しました。報告書では、主に次の点を整理しました。

  • 対象製品の概要
  • 輸出日、数量、金額、輸出先
  • 当時の該非判定の経緯
  • メーカーから口頭で「非該当」と聞いた事情
  • 正式な該非判定書を取得していなかった理由
  • 仕様書確認を怠った原因
  • 社内承認フローの問題点
  • 故意や隠蔽がなかったこと
  • 輸出先が懸念国ではなかったこと
  • 今後の再発防止策

特に、「メーカー任せの体質」と「判定フローの欠如」を原因として明確化しました。商社はメーカーから製品情報を受け取る立場にありますが、輸出者としての責任までメーカーに丸投げすることはできません。メーカーの説明を参考にすることはあっても、自社として正式な該非判定書を取得し、必要に応じて仕様書を確認する体制が必要です。

改善策としては、次の内容を盛り込みました。

改善項目 具体策
判定書必須化 輸出前にメーカーから正式な該非判定書を取得
仕様書確認 規制値に関係する性能項目を管理部門が確認
承認フロー 営業担当者単独で判断せず、責任者承認を義務化
研修実施 営業・貿易実務担当者に輸出管理研修を実施
記録保存 判定書、仕様書、承認記録を案件ごとに保管
定期点検 過去取引のサンプルチェックを定期的に実施
ICP策定 輸出管理内部規程を整備し、社内ルールを明文化

再発防止策のイメージは、次のとおりです。

メーカー説明

   ↓

正式な該非判定書を取得

   ↓

仕様書・規制値を確認

   ↓

営業部門から管理部門へ申請

   ↓

責任者が承認

   ↓

輸出許可の要否を確認

   ↓

輸出実行

   ↓

記録保存・定期点検

このように、担当者の注意力に依存するのではなく、組織としてミスを防ぐ仕組みを示すことが重要でした。

 

(4)経済産業省担当官との面談対応

報告書を提出した後、経済産業省の担当官との面談が行われました。当事務所の弁護士も同席し、依頼者の説明をサポートしました。

面談では、違反の経緯、当時の確認状況、輸出先、製品の用途、再発防止策の実効性などについて質問がありました。ここで重要なのは、違反を否定することではありません。すでに無許可輸出の事実が確認されている以上、誤りは誤りとして認めたうえで、故意性や悪質性がないこと、会社として速やかに是正に動いていることを説明する必要があります。

本件では、次の点を法的・事実的に説明しました。

  • メーカーの口頭説明を信じた過失によるもので、故意ではないこと
  • 虚偽の該非判定書を作成した事実はないこと
  • 社内点検で自ら発見し、当局指摘前に相談・申告したこと
  • 輸出先は北朝鮮等の特定の懸念国ではないこと
  • 技術流出による実害は限定的と考えられること
  • 正式な判定書取得や研修実施など、再発防止策をすでに進めていること

担当官との面談では、担当者が不安から余計な推測を述べたり、事実関係を曖昧にしたりしないよう、事前に想定問答を準備しました。面談当日は、依頼者から事実を説明し、法的評価や再発防止策の位置づけについて弁護士が補足する形を取りました。

 

【解決の結果】

無許可輸出は重大な違反です。本件でも、仮に当局調査で後から発覚し、しかも会社が把握後に放置していたと評価されれば、行政処分や企業名公表、取引停止など、より重い結果となる可能性がありました。

しかし、依頼者は社内点検で問題を発見した段階で速やかに専門家へ相談し、再判定、原因分析、報告書作成、自主申告、当局面談、再発防止策の実行を一貫して行いました。その結果、自主的に申告した点と、再発防止策に実効性がある点が評価され、輸出禁止等の行政処分は見送られました。

最終的には、「厳重注意」という行政指導にとどまり、依頼者はビジネスを止めることなく問題を解決することができました。取引先への大きな影響も回避され、社内では輸出管理体制を抜本的に見直す契機となりました。

その後、依頼者は輸出管理内部規程、いわゆるICPを策定しました。現在は、輸出前に正式な該非判定書を取得し、管理部門が内容を確認し、必要な場合には外部専門家に相談する体制を整えています。また、営業担当者向けの研修や、過去取引の定期点検も実施し、安全な貿易管理体制を構築しています。

 

【本件から得られる教訓】

本件の最大の教訓は、「知らなかった」「メーカーが非該当と言った」という説明だけでは、輸出者としての責任を十分に果たしたことにはならないという点です。

商社は、メーカーから技術情報を受け取る立場にあるため、製品の詳細仕様を自社だけで完全に把握することが難しい場合があります。しかし、輸出を行う以上、少なくとも正式な該非判定書を取得し、その内容を保存し、疑義がある場合には追加確認する体制が必要です。口頭説明だけに依存する運用は、後から説明できる証拠が残らないため、非常に危険です。

また、過去の違反が見つかった場合に重要なのは、発見後の対応です。「バレなければよい」と考えて放置すれば、将来発覚した際に、違反そのものよりも隠蔽が問題視される可能性があります。反対に、自主的に問題を発見し、速やかに申告し、具体的な再発防止策を示せば、当局の評価が大きく変わることがあります。

自主申告は、企業にとって勇気のいる判断です。しかし、リスクを最小限に抑える危機管理の観点からは、有効な選択肢となり得ます。特に、故意性がなく、懸念国向け輸出ではなく、実害が限定的で、発見後速やかに対応している事案では、誠実な対応が重要な意味を持ちます。

 

【弁護士のコメント】

輸出管理違反が疑われる事案で最も避けるべきなのは、問題を社内で抱え込んだまま時間を経過させることです。発見から申告までのスピード、原因分析の深さ、再発防止策の具体性は、当局対応において重要な評価要素となります。

「メーカーが大丈夫と言っていた」「前任者から引き継いだだけだった」「数年前の取引だから問題ないと思った」という説明は、企業側の事情として理解できる面はあります。しかし、当局に対しては、それだけでは十分ではありません。なぜ確認できなかったのか、どの業務フローが不十分だったのか、今後どう改善するのかを、資料に基づいて説明する必要があります。

当事務所では、外為法違反が疑われる場合の社内調査、該非判定の再確認、経済産業省への自主申告、違反原因・再発防止策報告書の作成、当局面談への同席、輸出管理内部規程の策定支援を行っています。

「過去の輸出に問題があるかもしれない」と気づいた時点で、すぐに対応を始めることが重要です。放置すれば傷口は広がりますが、早期に事実を整理し、誠実に申告し、再発防止策を示すことで、事業への影響を最小限に抑えられる可能性があります。

この記事の監修者

代表弁護士 有森 文昭弁護士 (東京弁護士会所属)

ARIMORI FUMIAKI

東京大学法学部及び東京大学法科大学院卒。弁護士登録後(東京弁護士会所属)、都内法律事務所で執務。都内法律事務所での執務時に、税関対応・輸出入トラブルをはじめとした通関・貿易に関する問題、労働問題等を中心に100件以上の案件に携わる。その中で、通関・貿易に関する問題についてより広く網羅的な知識を取得し、より高品質なリーガルサービスを提供したいと考え、通関・貿易関係の国家資格である通関士の資格を取得。

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