技術の提供~実務上の注意点~
輸出安全管理体制の構築輸出管理の現場で誤解されやすく、かつ違反リスクが高い論点が、技術提供に関する取扱いです。とりわけ、研究開発型の中小企業や大学・研究機関では、外国人との共同研究や技術指導、交流などが日常的に行われており、知らず知らずのうちに法令違反を犯してしまうリスクが潜んでいます。
今回は、「技術の提供」とは何か、そしてどのように規制されているのかを整理します。
「技術の提供」とは何か、輸出管理の対象は「モノ」だけではありません
外為法において、規制対象となるのは貨物の輸出だけではなく、一定の技術を外国へ提供する行為も含まれます。主に次のような手段が想定されています。
- ①設計図・仕様書・マニュアル等の交付
- ②電子メール・クラウド・ファイル共有による送信
- ③オンライン会議・口頭での技術的説明
- ④ラボ内での指導等
こうした提供行為が、「リスト規制」または「キャッチオール規制」に該当する技術である場合、原則として事前の経済産業大臣の許可が必要となります。
特定類型制度導入によるみなし輸出管理の運用の明確化
2022年の制度改正では、みなし輸出の適用範囲が大きく見直されました。
従来は、日本国内における居住者から非居住者への技術提供はみなし輸出の対象となりましたが、非居住者が半年日本に在住すると居住者となり、それ以後はみなし輸出の対象外となってしまうという自体が生じていました。
このような場合に一律に規制対象外とすることは、経済安全保障の観点から望ましくないということで、特定類型制度が導入されました。
この改正により、次のような取引にも注意が必要となります。
- ①外資系企業の日本人社員への技術提供
- ②外国政府機関から研究資金を受ける研究プロジェクト
- ③海外大使館・文化機関を通じた共同事業等
つまり、居住者、非居住者という形式的な側面だけで判断せず、その背後にある組織的支配・出資構造にも目を向けることが重要となります。
記録の徹底の重要性
技術の提供への対応において、特に重要なのは次の3点です。
- ①事前の該非判定、取引審査(技術が規制対象か)
- ②相手方の属性確認(国籍・所属・支配関係など)
- ③①、②に関する記録の保存
大学であれば、研究倫理委員会や技術管理室等の特定の部門における審査フローに組み込むことが想定されます。また、中小企業の場合でも、最低限、社内チェックフローに沿った確認を行うだけでも、大きな違反リスクを防ぐことにつながります。
弊事務所では、組織における安全保障輸出管理体制の構築サポートや、日常的な該非判定のサポート、外部監査の実施サポート等、幅広くサポートを行っておりますので、ご関心がありましたらお気軽にお問い合わせください。
この記事と関連するコラム
Warning: Trying to access array offset on false in /home/replegal/fefta-fa.com/public_html/wp-content/themes/export-duties/single-column.php on line 75
Warning: Attempt to read property "slug" on null in /home/replegal/fefta-fa.com/public_html/wp-content/themes/export-duties/single-column.php on line 75
中小企業における輸出管理の課題 ― 限られたリソースでどのように違反を防ぐか
輸出安全管理体制の構築輸出管理は大企業だけに課される義務ではありません。 中小企業においても、海外取引や製品販売を行う以上、外為法の規制を遵守しなければなりません。しかし実際には「人員不足」、「専門知識の欠如」、「コスト負担の大きさ」等の制約から、輸出管理体制が後回しにされがちです。 本日は、中小企業が直面する典型的な課題を整理し、限られたリソースの中で実効性ある輸出管理を実現するためのポイントをご紹介しま...
外為法の輸出管理というと「モノ(製品)」の輸出のみを思い浮かべる方が多いかもしれません。 しかし、実際には技術情報やデータの提供も規制対象に含まれます。 特に近年では、AI、半導体設計、量子技術などの分野で、技術データの取扱いが企業・大学双方にとって大きなリスクとなっています。 「技術の提供」とは何か 外為法において、「技術の提供」も輸出と同様に規制対象として扱われています。 これは、...
キャッチオール規制の実務では、「誰が」「何の目的で」輸出品を使用するかを確認することが最も重要です。 これを怠ると、外為法違反となるおそれがあります。 本稿では、需要者・用途の確認手順と、その際に直面する現場の課題を整理します。 確認の目的と法的根拠 キャッチオール規制では、輸出者は「用途確認(for what purpose)」と「需要者確認(to whom)」を自らの責任で行わな...
輸出管理の実務では、貨物や技術を直接的に海外に提供するだけでなく、「第三国を経由して」提供されるケースも増えています。 たとえば、A国の企業から依頼を受けてB国に輸出する、あるいは技術を一旦国外の自社拠点に送ってから、他国の顧客に提供するといったケースです。 このような間接的・多段階的な輸出は、意図しない違反リスクを発生させやすく、また、外為法だけでなく相手国の再輸出規制との関係も無視できず注...
キャッチオール規制と企業の実務対応 ― 「疑わしいときは止まる」の原則
輸出安全管理体制の構築外為法による輸出管理の中でも、企業にとって最も実務上の負担が大きいのが「キャッチオール規制」です。 これは、リスト規制品目に該当しない製品であっても、輸出先や最終用途によっては規制対象となる制度です。平たく言えば「品目に載っていなくても危険性が存在するなら止める」という考え方であり、企業は常にエンドユーザーや用途の確認を怠らない体制を構築する必要があります。 本日は、キャッチオール規制の仕...

東京大学法学部及び東京大学法科大学院卒。弁護士登録後(東京弁護士会所属)、都内法律事務所で執務。都内法律事務所での執務時に、税関対応・輸出入トラブルをはじめとした通関・貿易に関する問題、労働問題等を中心に100件以上の案件に携わる。その中で、通関・貿易に関する問題についてより広く網羅的な知識を取得し、より高品質なリーガルサービスを提供したいと考え、通関・貿易関係の国家資格である通関士の資格を取得。