外為法の安全輸出管理の総論-第1回- |通関士資格所有の輸出管理・税関事後調査に強い弁護士

外為法の安全輸出管理の総論-第1回-

1 外為法の安全保障輸出管理とは何か――企業が最初に押さえるべき基本

「海外の取引先から、当社製品のサンプルを送ってほしいと言われました。金額も小さいですし、普通の民生品なので、通常の輸出手続だけで送ってよいと考えていました。ところが、社内の担当者から『外為法の安全保障輸出管理の確認は済んでいますか』と聞かれました。輸出管理というと、兵器や軍事企業に関係する大企業だけの話だと思っていたのですが、当社のような中小企業にも関係があるのでしょうか。また、製品そのものではなく、海外の技術者に図面や仕様書をメールで送るだけの場合にも、何か確認が必要なのでしょうか」

このようなご相談は、近時、メーカー、商社、大学発ベンチャー、研究開発型企業、海外向け小売事業者などから増えています。安全保障輸出管理という言葉は、やや専門的で取っつきにくい印象があります。しかし、実務上は、「海外に物を送る」「海外の会社に技術資料を送る」「外国の研究者や技術者と共同開発をする」「海外展示会に製品や試作品を持ち出す」といった、日常的な事業活動の中で問題になります。

有森FA法律事務所は、輸出安全管理体制の構築サポート、輸出事後調査対応サポート、ワシントン条約違反対応、知的財産権侵害事案対応などを取り扱い、通関士資格を有する弁護士が輸出入に関するトラブルに対応している法律事務所です。本稿では、これから海外取引を始める企業、すでに輸出を行っているものの外為法対応に不安がある企業に向けて、外為法の安全保障輸出管理の基本を整理します。

 

2 安全保障輸出管理とは何か

安全保障輸出管理とは、簡単にいえば、軍事転用のおそれがある貨物や技術が、懸念国、懸念組織、テロリスト、大量破壊兵器等の開発を行う者などに渡ることを防ぐため、輸出や技術提供を事前に管理する制度です。

日本では、外国為替及び外国貿易法、いわゆる外為法を中心として、安全保障貿易管理制度が構築されています。外為法上、一定の貨物を輸出する場合や、一定の技術を外国又は非居住者に提供する場合には、経済産業大臣の許可が必要となることがあります。安全保障輸出管理は、単に税関での通関手続を正しく行うという問題にとどまりません。輸出しようとする貨物や提供しようとする技術について、事前に「許可が必要かどうか」を判断し、必要な場合には輸出や提供の前に許可を取得することが重要です。

制度の根拠として重要なのが、外為法第48条第1項と外為法第25条第1項です。外為法第48条第1項は、特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物を輸出しようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならないという趣旨の規定です。貨物については、輸出貿易管理令別表第1が重要な基準となります。

一方、外為法第25条第1項は、特定の種類の貨物の設計、製造又は使用に係る技術を外国で提供することを目的とする取引や、特定技術を特定国の非居住者に提供することを目的とする取引について、経済産業大臣の許可を受けなければならないとする規定です。つまり、外為法は「物の輸出」だけでなく、「技術の提供」も管理対象にしています。

 

3 なぜ民間企業にも関係するのか

安全保障輸出管理というと、武器や兵器を製造する企業だけの問題だと思われがちです。しかし、実際には、民生品であっても軍事転用可能なものは少なくありません。例えば、工作機械、炭素繊維、一定の化学品、センサー、通信装置、集積回路、ろ過器などは、本来は民間用途で使用されるものであっても、性能や仕様によっては大量破壊兵器等や通常兵器の開発、製造、使用に利用されるおそれがありますLegalOnナレッジ。

また、製品そのものだけでなく、設計図、仕様書、実験データ、製造ノウハウ、プログラム、技術指導、研修、口頭説明なども、一定の場合には「技術の提供」として管理対象になります。経済産業省のガイダンスでも、技術の提供には、メール、電話、ウェブ会議、クラウドサービス、USBメモリー等による持ち出しなどが含まれ得ることが示されています。

したがって、海外向けに製品を販売する企業だけでなく、海外拠点と開発情報を共有する企業、外国企業と共同研究を行う企業、外国人技術者や研究者に技術指導を行う企業、海外展示会に試作品を持ち出す企業も、安全保障輸出管理を無視することはできません。

 

【図表1 安全保障輸出管理で確認すべき対象】

区分 典型例 注意点
貨物の輸出 製品、部品、試作品、サンプル、研究機材、測定機器、材料 無償サンプルや海外展示会への一時持ち出しでも確認が必要
技術データの提供 設計図、仕様書、実験データ、製造条件、プログラム、マニュアル メール送信、クラウド共有、記録媒体の持ち出しも問題になり得る
技術支援 技術指導、研修、コンサルティング、共同開発会議、口頭説明 図面を渡さなくても、内容次第で技術提供に該当し得る
国内での技術提供 非居住者への説明、外国研究者への指導、特定類型該当者への提供 日本国内で行われても、みなし輸出管理の対象になり得る

 

4 外為法第48条第1項――貨物の輸出規制

貨物の輸出について最初に確認すべき根拠規定は、外為法第48条第1項です。同項は、国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められる特定の種類の貨物について、特定の地域を仕向地として輸出しようとする者に対し、経済産業大臣の許可を求める制度を定めています。

ここで重要なのは、「輸出をしようとする者」は、必ずしも貨物の所有者に限られないという点です。CISTECの解説でも、外為法第48条の「輸出をしようとする者」は、居住者か非居住者かを問わず、また輸出貨物の所有権を有する者である必要はないが、自己の責任において輸出しようとする者であることを要するとされています。通関業者や物流業者に手続を依頼している場合でも、輸出者側の企業が法的責任を問われる可能性がある点に注意が必要です。

企業実務では、「通関業者に任せているから大丈夫」「メーカーが該非判定しているはずだから当社は関係ない」と考えてしまうことがあります。しかし、用途や需要者に関する情報は、メーカーよりも販売会社や商社の方が詳しく把握している場合もあります。輸出管理は、通関実務だけの問題ではなく、営業、技術、法務、輸出管理、物流などが連携して判断すべきコンプライアンス課題です。

 

5 外為法第25条第1項――技術提供規制

安全保障輸出管理で見落とされやすいのが、技術提供規制です。外為法第25条第1項は、特定技術を外国において提供することを目的とする取引、又は特定技術を特定国の非居住者に提供することを目的とする取引について、経済産業大臣の許可を受けなければならないと定めています。

技術とは、一般に、貨物の設計、製造又は使用に必要な特定の情報をいい、技術データ又は技術支援の形で提供されるものを含みます。経済産業省の資料では、技術の提供について、他者が利用できる状態に置くことを含み、有償・無償を問わないとされています。

例えば、以下のような行為は、内容によって技術提供に該当し得ます。

 

【図表2 技術提供に該当し得る行為】

場面 具体例 実務上の注意点
メール送信 設計図、仕様書、技術報告書、プログラムを海外取引先に送る 添付ファイルの内容が規制技術に該当しないか確認する
ウェブ会議 海外技術者に製造条件や不具合解析方法を説明する 口頭説明だけでも技術支援に該当し得る
クラウド共有 海外拠点や共同研究先がアクセスできるフォルダに技術資料を置く 誰がアクセスできるか、アクセス権限の管理が重要
海外出張 技術資料を持参し、現地で技術指導や討議を行う 自己使用か、相手方への提供目的かを区別する
国内研修 日本国内で外国企業の技術者に製造ノウハウを教える 国内でも非居住者への提供であれば管理対象となり得る

企業にとって特に重要なのは、「貨物を輸出していないから外為法は関係ない」とはいえない点です。
技術情報の流出は、メール一通、オンライン会議一回、クラウド共有設定一つで発生し得ます。現代の事業活動では、製品そのものよりも技術情報の方が重要な価値を持つことも多いため、技術提供規制への対応はますます重要になっています。
以上、本日は外為法の安全輸出管理の総論ー第1回をご紹介いたしました。次回は第2回を予定しております。

 

この記事の監修者

代表弁護士 有森 文昭弁護士 (東京弁護士会所属)

ARIMORI FUMIAKI

東京大学法学部及び東京大学法科大学院卒。弁護士登録後(東京弁護士会所属)、都内法律事務所で執務。都内法律事務所での執務時に、税関対応・輸出入トラブルをはじめとした通関・貿易に関する問題、労働問題等を中心に100件以上の案件に携わる。その中で、通関・貿易に関する問題についてより広く網羅的な知識を取得し、より高品質なリーガルサービスを提供したいと考え、通関・貿易関係の国家資格である通関士の資格を取得。

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