第三国を経由した技術・貨物の提供はどう規制されるか?
輸出安全管理体制の構築輸出管理の実務では、貨物や技術を直接的に海外に提供するだけでなく、「第三国を経由して」提供されるケースも増えています。
たとえば、A国の企業から依頼を受けてB国に輸出する、あるいは技術を一旦国外の自社拠点に送ってから、他国の顧客に提供するといったケースです。
このような間接的・多段階的な輸出は、意図しない違反リスクを発生させやすく、また、外為法だけでなく相手国の再輸出規制との関係も無視できず注意が必要です。
外為法における「迂回輸出」の規制
外為法では、許可が必要な貨物や技術について、「第三国を経由して提供する行為」も規制対象となります。具体的には、以下のような行為については注意が必要です。
- ①日本企業が海外子会社に技術を提供し、その子会社が別の外国企業(例:中国)に再提供するケース
- ②一旦米国の物流センターに貨物を送付した後、そこから他国に再出荷するケース
- ③海外のパートナー企業にソフトウェアのコードを送信し、その企業が別の国に技術移転するケース
このような「再輸出」や「間接提供」も、一定の場合には日本の輸出管理規制の対象になることには十分注意が必要です。
「提供の意図」が問われる
特に問題となるのは、「第三国を経由して本来許可が必要な国へ技術等を届ける」ようなケース、いわば典型的な迂回的な輸出に該当するケースです。
このような場合、たとえ形式的には直接輸出をしていなくても、日本企業がその再提供を認識・容認していた場合には規制違反と見なされることがあります。
そのため、事後的に再輸出の意図を確認された場合に備えて、契約書やEメール等で対応方針をあらかじめ定めておくことが重要です。
外国の規制(EARなど)とのクロスチェックも必要
また、米国の輸出管理規則(EAR等)は、非常に簡略化していうと、「米国原産の部品・技術が含まれる製品」を再輸出する場合に、第三国でも米国の規制が適用される仕組みを採っています。
つまり、日本企業が米国由来の技術やソフトウェアを第三国経由で提供する場合、日本の外為法だけでなく米国の規制への適合性も確認しなければならないことになります。
再輸出の可能性を前提とした体制整備を目指しましょう
第三国経由の提供に対応するためには、少なくとも以下のような体制整備が求められます。
- ①エンドユーザーやエンドユースの確認の取得と記録保存
- ②海外子会社・パートナーとの契約条項に再輸出制限を明記
- ③技術提供時の「再提供不可」ポリシーの設置と周知
とくに中小企業においては、こうしたリスクへの対応が整備されていないケースが多いため、契約や取引開始の段階から「第三国での取扱い」まで見通した管理体制が求められます。
弊事務所では、組織における安全保障輸出管理体制の構築サポートや、日常的な該非判定のサポート、外部監査の実施サポート等、幅広くサポートを行っておりますので、ご関心がありましたらお気軽にお問い合わせください。
この記事と関連するコラム
Warning: Trying to access array offset on false in /home/replegal/fefta-fa.com/public_html/wp-content/themes/export-duties/single-column.php on line 75
Warning: Attempt to read property "slug" on null in /home/replegal/fefta-fa.com/public_html/wp-content/themes/export-duties/single-column.php on line 75
精密部品や工業素材は、航空・宇宙・軍事・電子分野に転用可能な「デュアルユース(民生・軍事両用)」の代表的なものです。 特に中小製造業が多くを担っている高精度部品・金属材料・加工素材等は、外為法上の規制対象に該当することがあり、輸出時には慎重な該非判定が求められます。 規制対象となりやすい部品・素材の例 外為法のリスト規制では、完成品だけでなく、その構成要素である部品や素材も明確に規制対象...
外為法に基づく輸出管理を適切に行うためには、単発の判断や担当者の経験則に頼るのではなく、組織としての内部統制システムを整備することが不可欠です。 経済産業省も「輸出管理内部規程」の整備を推奨しており、企業規模を問わず実効性のある体制を持つことが求められています。 本日は、輸出管理における内部統制の要素と、企業が実務上整備すべき具体的なポイントをご紹介します。 内部統制の目的 まず、...
「みなし輸出」とは、簡単に言うと、外国に貨物を物理的に輸出するのではなく、日本国内で外国人に技術を提供する行為を、実質的に「輸出」と見なして規制する制度です。 2022年には、この「みなし輸出」制度に対して大幅な改正が行われました。 各企業や大学・研究機関にとっては改正への対応は非常に重要となります。 そもそも「みなし輸出」とは? 外為法では、技術提供に関する輸出規制の一環として、以下...
中小企業における輸出管理の課題 ― 限られたリソースでどのように違反を防ぐか
輸出安全管理体制の構築輸出管理は大企業だけに課される義務ではありません。 中小企業においても、海外取引や製品販売を行う以上、外為法の規制を遵守しなければなりません。しかし実際には「人員不足」、「専門知識の欠如」、「コスト負担の大きさ」等の制約から、輸出管理体制が後回しにされがちです。 本日は、中小企業が直面する典型的な課題を整理し、限られたリソースの中で実効性ある輸出管理を実現するためのポイントをご紹介しま...
「リストに載っていないから安全だ」と考えてしまうのは、輸出管理で最も多い初歩的な誤解のひとつです。 当然ではありますが、リストに掲載されていない製品や技術であっても、一定の条件を満たす場合には経済産業大臣の許可が必要となります。 これが「キャッチオール規制(catch-all control)」です。 ここでは、その法的仕組みと実務上の対応ポイントを整理します。 キャッチオール規制の目的...

東京大学法学部及び東京大学法科大学院卒。弁護士登録後(東京弁護士会所属)、都内法律事務所で執務。都内法律事務所での執務時に、税関対応・輸出入トラブルをはじめとした通関・貿易に関する問題、労働問題等を中心に100件以上の案件に携わる。その中で、通関・貿易に関する問題についてより広く網羅的な知識を取得し、より高品質なリーガルサービスを提供したいと考え、通関・貿易関係の国家資格である通関士の資格を取得。