ウチワサボテン種子オイル配合化粧品の輸入
ワシントン条約違反の対応【相談内容】
当社は、化粧品の輸入販売業者です。現在、南米のメーカーから、オーガニックの「ウチワサボテン種子オイル」を配合した美容液を輸入し、日本国内で販売する計画を立てています。
すでにサンプルを取り寄せたところ品質は良好で、日本で販売するための薬機法対応も進めています。ところが、通関業者から「サボテンはワシントン条約に関係する可能性があるので、事前に確認してほしい」と指摘されました。
今回輸入するのは、サボテンの苗や植物そのものではなく、種子から抽出されたオイルを配合した化粧品です。メーカーからは化粧品の全成分表示も受け取っています。このような場合でも、ワシントン条約上の確認や手続きが必要になるのでしょうか。
【弁護士からの回答】
結論として、全成分表示だけで安全に通関できるとは限りません。サボテン科植物は、ワシントン条約(CITES)の対象となる場合が多く、植物そのものだけでなく、部分や派生物が規制対象に含まれることがあります。日本では、ワシントン条約に基づく輸出入規制は外為法により水際で実施されており、附属書II掲載種の商業取引では、原則として輸出国政府が発行する輸出許可書等が必要になります。
もっとも、サボテン科植物については、注釈による除外もあり、すべてのサボテン由来成分が一律に輸入許可・輸出許可の対象になるわけではありません。特に、ウチワサボテンに関しては、Cactaceae spp.(サボテン科)全体の規制だけでなく、Opuntia(オプンティア属)のどの亜属に該当するか、原料が種子なのか、果実なのか、茎・花なのか、また人工栽培由来かどうかによって結論が変わります。
したがって、今回のケースでは、薬機法対応とは別に、ワシントン条約上の該非確認を行う必要があります。そのうえで、規制対象外と整理できる場合でも、税関が確認できるように、学名、使用部位、原料の由来、注釈上の除外根拠をインボイス等に明記しておくべきです。
目次
1 サボテン科植物は原則としてCITESの確認対象になる
ワシントン条約では、附属書に掲載された野生動植物の国際取引が規制されます。附属書Iは商業目的の国際取引が原則禁止され、附属書IIは商業目的の国際取引自体は可能ですが、輸出国政府の輸出許可書等が必要とされています。
サボテン科(Cactaceae spp.)は、基本的にワシントン条約附属書IIの対象となるグループとして扱われます。一部には附属書Iに掲載されるより厳格な種もあります。そのため、「サボテン由来の成分を含む」と分かった時点で、まずはその原料植物の学名を確認し、附属書I・II・IIIのいずれに該当するのか、また注釈による除外があるのかを確認する必要があります。
経済産業省も、ワシントン条約の規制対象種に該当するかを調べるには、まず学術名を特定する必要があると説明しています。附属書はラテン語の学術名で記載されているため、貨物の購入元などに確認して、ラテン語の学術名を調べる必要があります。「ウチワサボテン」「Prickly pear」「Cactus seed oil」といった一般名・商品名だけでは、通関上十分とはいえません。
2 「種子は除外」でも、オイルが当然に除外されるとは限らない
今回の製品で特に問題になるのは、「種子から抽出したオイル」という点です。
サボテン科植物については、注釈により、種子、胞子、花粉などが規制対象から除外される場合があります。CITESの注釈#4では、サボテン科を含む対象植物について、原則としてすべての部分・派生物を対象としつつ、一定のものを除外しています。その中には種子が含まれますが、メキシコから輸出されるサボテン科植物の種子については例外的に除外の対象外とされるなど、細かな条件があります。
しかし、種子そのものが除外されることと、種子から抽出されたオイルが当然に除外されることは同じではありません。ワシントン条約では、対象種の「部分」や「派生物」も規制対象になり得ます。サボテン科植物の注釈でも、原則として「すべての部分および派生物」が対象とされ、そのうえで個別に除外対象が列挙されています。
したがって、「原料は種子だから大丈夫」「全成分表示にオイルと書いてあるから大丈夫」とは判断できません。輸入しようとしているオイルが、どの種のサボテンのどの部位から得られた派生物なのか、注釈上の除外に該当するのかを確認する必要があります。
3 ウチワサボテンでは「Opuntia subgenus Opuntia」かどうかが重要
ウチワサボテンと呼ばれる植物には、一般に Opuntia 属の植物が含まれます。CITES上、サボテン科植物については、Opuntia 属のうち Opuntia 亜属に該当する植物に関する除外が設けられています。経済産業省も、2025年に「ワシントン条約附属書の解釈」の解説として、附属書IIに掲載されているサボテン科植物のうち、オプンティア属オプンティア亜属に該当する植物に関する説明を公表しています。
また、CITESの注釈#4では、自然化または人工的に繁殖された Cactaceae の果実およびその部分・派生物、ならびに自然化または人工的に繁殖された Opuntia subgenus Opuntia および Selenicereus の茎・花およびその部分・派生物が除外対象として整理されています。
このため、ウチワサボテン種子オイルについても、単に「ウチワサボテン」と表示されているだけでは足りません。少なくとも、次の点をメーカーに確認すべきです。
- 原料植物の正確な学名
- Opuntia 属かどうか
- Opuntia subgenus Opuntia に該当するか
- 原料が種子、果実、茎、花のいずれに由来するか
- 原料植物が人工栽培・人工繁殖由来か、野生採取由来か
- 原産国・輸出国
- 輸出国政府がCITES輸出許可書を発行できるか
- 規制対象外と主張する場合、その根拠となる現地当局または専門機関の確認資料があるか
特に、化粧品原料として流通する「Prickly pear seed oil」は、一般に Opuntia ficus-indica の果実の種子から得られるオイルとして紹介されることがあります。ウェブもっとも、実際の製品がどの学名の植物に由来するかは、メーカーの資料で確認しなければなりません。
4 規制対象に該当する場合は、輸出国政府のCITES輸出許可書が必要
確認の結果、当該サボテン由来オイルまたはそれを含む製品がワシントン条約の規制対象に該当する場合、日本への輸入にあたっては、まず輸出国が発行するCITES輸出許可書または再輸出証明書が必要になります。
経済産業省は、附属書に掲載されている対象種の場合、日本への輸入に係る外為法上の手続として、まず輸出国が発行するCITES輸出許可書または再輸出証明書が必要であり、輸出国でそれらの書類が発行可能かどうかを輸出者に確認するよう案内しています。
したがって、メーカーが「オーガニック認証がある」「これまで他国には問題なく輸出できた」「化粧品成分表がある」と説明しても、それだけではワシントン条約上の必要書類の代替にはなりません。オーガニック認証は栽培方法や品質管理に関する認証であり、CITES上の輸出許可書とは別のものです。
もし規制対象であるにもかかわらずCITES輸出許可書等を取得しないまま貨物を発送した場合、日本の税関で貨物が止められる可能性があります。到着後に書類を整えようとしても、輸出国側で事後発行が認められない場合や、書類内容が実際の貨物と整合しない場合には、通関が長期化し、返送・廃棄・保管費用の発生につながります。
5 規制対象外と整理する場合も、通関書類で説明できる状態にする
一方で、調査の結果、注釈上の除外に該当し、ワシントン条約上の手続が不要と整理できる場合もあります。その場合でも、何も説明せずに「Cactus seed oil」とだけ記載して輸入するのは危険です。
経済産業省は、規制されていない種の場合であっても、税関がワシントン条約で規制されていないことを容易に確認できるよう、規制対象外であることが分かる具体的内容、すなわち学術名や、種によっては原産国・飼育されたものなどをインボイスに記載するよう求めています。
本件でも、少なくとも以下のような情報をインボイス、パッキングリスト、成分証明書、メーカー証明書に整理しておくべきです。
- 製品名および用途(化粧品、美容液)
- サボテン由来成分のINCI名・全成分表示名
- 原料植物の学名
- 原料植物の部位(種子由来オイルであること)
- 原産国・輸出国
- 人工栽培または自然化植物由来であるか
- CITES上の附属書・注釈に関する整理
- 規制対象外と判断する場合の根拠
- ブレンド品の場合、サボテン由来成分の含有状況
化粧品の全成分表示は、薬機法上の表示や成分確認には有用ですが、CITES上の学名、原産国、由来部位、注釈該当性を示すものではありません。したがって、全成分表示だけで税関がワシントン条約上の該非を判断できるとは限りません。
6 輸入前に行うべき実務対応
本件で輸入前に行うべき対応は、次の順序で整理できます。
まず、メーカーから原料植物の学名を取得します。「Prickly pear」「Cactus」「Opuntia」だけでなく、種名まで確認してください。次に、その学名がワシントン条約附属書のどこに掲載されているか、また注釈による除外があるかを確認します。経済産業省は、学術名を特定したうえで附属書を確認し、植物の場合には注釈により貨物の状態ごとに除外または限定があるため、解釈資料も確認するよう案内しています。
次に、輸出国側でCITES輸出許可書または再輸出証明書が発行可能かを確認します。規制対象であれば、原則としてこの書類がなければ日本での輸入手続は進みません。人工栽培由来である場合には、その旨が輸出国側の書類やメーカー証明書で確認できるようにしておくと、説明がしやすくなります。
最後に、日本側の通関書類に、学名、由来部位、原産国、規制対象外または許可書添付の根拠を明記します。必要に応じて、経済産業省または通関業者に事前相談し、輸入時にどの手続区分で処理するかを確認しておくべきです。
7 まとめ
ウチワサボテン種子オイルを配合した化粧品を輸入する場合、薬機法上の全成分表示だけでは、ワシントン条約上の確認としては不十分です。サボテン科植物は附属書IIを中心にCITESの対象となるため、原料植物の学名、由来部位、原産国、人工栽培由来かどうか、注釈上の除外に該当するかを確認する必要があります。ウェブ +1
規制対象に該当する場合には、輸出国政府が発行するCITES輸出許可書または再輸出証明書が必要です。ウェブ一方、注釈上の除外により規制対象外と整理できる場合でも、税関が確認できるよう、学名や規制対象外である根拠をインボイス等に明記しておく必要があります。
貨物が日本に到着してから確認を始めると、通関停止、保管費用、返送、廃棄といったリスクが生じます。発注前または少なくとも船積み前に、メーカーから学名・原産国・由来部位・CITES書類の可否を取得し、通関業者とともに該非確認を済ませておくことが重要です。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。
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東京大学法学部及び東京大学法科大学院卒。弁護士登録後(東京弁護士会所属)、都内法律事務所で執務。都内法律事務所での執務時に、税関対応・輸出入トラブルをはじめとした通関・貿易に関する問題、労働問題等を中心に100件以上の案件に携わる。その中で、通関・貿易に関する問題についてより広く網羅的な知識を取得し、より高品質なリーガルサービスを提供したいと考え、通関・貿易関係の国家資格である通関士の資格を取得。