外国人留学生の採用の注意点 |通関士資格所有の輸出管理・税関事後調査に強い弁護士

外国人留学生の採用の注意点

仮の相談事例

先端素材メーカーの人事担当者Aさんは、日本の大学院で博士号取得予定の中国人留学生Bさんを、研究開発部門の正社員として採用することになりました。
Bさんは入社後、日本国内の研究所に勤務する予定です。しかし配属予定部署では、外為法のリスト規制に該当する「高性能炭素繊維」の製造技術を扱っています。Aさんは「日本国内で雇用し、国内で働いてもらうだけなら問題ないのでは」と考えていましたが、最近「みなし輸出」という言葉を聞き、外国籍社員に機微技術を見せること自体に制限があるのではないかと不安になりました。

結論としては、国内勤務であっても一定の条件に当たる場合、居住者(国内にいる社員)への技術提供が「輸出」とみなされ、経済産業大臣の許可(役務取引許可)が必要になる可能性があります。
特に、採用時の確認と、配属後の継続管理が重要です。

弁護士の解説

「国内の社員だから大丈夫」は原則論ー実務で問われるのは「相手が特定類型か」

外為法(外国為替及び外国貿易法)の技術提供規制は、典型的には「外国にいる相手」や「非居住者」への提供を念頭に理解されてきました。そのため「国内で雇用し、国内で働く社員に対して技術を見せるだけなら規制されないのでは」と考えがちです。
しかし近年は、国内にいる者(居住者)であっても、外国政府等の強い影響下にある場合には、実質的に国外へ技術が移転する危険が高いという観点から管理が厳格化されています。
これが実務で「みなし輸出」と呼ばれる枠組みであり、国籍そのものではなく、相手の置かれた状況が「特定類型」に当たるかが中心的な確認ポイントになります。

技術提供規制の根拠条文ー人事も最低限ここは押さえる

技術提供の規制の根拠は、外為法第25条です。
同条は、一定の機微技術(特定技術)を提供する取引について、経済産業大臣の許可を要する旨を定めています(いわゆる役務取引許可)。
どの技術が「特定技術」に当たるかは、政令である外国為替令(外為令)第17条と外為令別表で具体化され、さらに貨物等省令、運用通達、役務通達等で仕様(スペック)や解釈が細分化されます。人事として重要なのは、技術の中身を自力で判定することではなく、社内の輸出管理部門や法務が判断できるように、誰に提供するのか(相手方属性)を適切に確認し、証跡を残すことです。

みなし輸出(特定類型)の考え方ー居住者への提供でも許可が必要になる理由

外為法上、相手が日本国内で勤務し生活の本拠が日本にある場合、形式的には「居住者」に当たり得ます。従来「居住者への提供は原則として規制の中心ではない」という理解が広がっていた背景もここにあります。
ところが、居住者であっても、外国政府、外国法人等から強い影響を受けている状態にある場合には、機微技術の提供が実質的に国外移転と同等のリスクを持つとして規制対象となり得ます。これを整理するための枠組みが「特定類型」です。
人事実務で特に重要なのは、採用時点で「現時点では該当しない」ことが確認できても、それで終わりではない点です。配属後に兼業、副業、共同研究、奨学金、研究費、成果報告義務等の状況が変われば、後から特定類型に該当してしまう可能性があります。したがって、採用時の確認と配属後の更新を一体として設計する必要があります。

確認すべき「特定類型」3パターンー人事が聞くべき質問の方向性

特定類型は大きく3つのパターンで整理されます。
厳密な該当性判断は輸出管理部門・法務と連携して行う前提として、人事は「聞くべき論点を漏らさず、証跡を残す」ことが役割です。
類型①:外国政府、外国法人等との契約関係があり、指揮命令に服する、又は善管注意義務等を負う関係にある場合。典型例は兼業・副業、委任、請負、クロスアポイント、外部研究員としての契約等です。
類型②:外国政府等から一定規模以上の資金提供を受け、当該外国政府等の利益のために行動すると認められる状態にある場合。奨学金、研究費、助成金、プロジェクト資金等が問題になり得ます。金額だけでなく、受領条件(成果帰属、報告義務、継続条件等)と実質が重要です。
類型③:日本国内での行動について、外国政府等から具体的な指示を受ける状態にある場合。指示系統、報告ルート、成果提出義務、共同研究先との関係が問題になりやすい類型です。

外国人留学生を採用する場面では、例えば「母国の大学や研究機関に籍を残している」「在学中の奨学金や研究費が入社後も継続する」「共同研究契約や成果報告義務が残っている」といった事情があると、特定類型該当の可能性が生じます。推測で決めず、本人申告に加え、確認に使える資料(契約書、採択通知、条件記載ページ等)を提出してもらい、社内判断に回せる形に整えることが重要です。

タイプ 実務イメージ 採用・配属での確認ポイント例 留意すべき点
タイプ① 外国の組織との契約関係が残る(兼業、副業、委任等) 入社後も継続する雇用・委任・請負等の契約の有無、指揮命令や成果提供義務の有無 形式がボランティアや名誉職でも、実質が指揮命令・義務関係なら問題になり得る
タイプ② 外国政府等から資金提供を受ける 奨学金・研究費・助成金の受領有無、受領条件(成果帰属、報告義務、継続条件) 金額だけでなく条件と実質が重要。受領が直ちに該当とは限らないが確認は必須
タイプ③ 国内行動について外国政府等の指示を受ける 指示・報告のルート、成果の提出先、共同研究先との関係 本人の認識と実態がズレることがあるため、具体的事実で聞き、資料化する

採用時の「確認書・誓約書」はほぼ必須ー未整備だと会社が説明できない

みなし輸出管理で問題になるのは、違反そのものだけではありません。
「なぜ確認しなかったのか」「確認したなら、どのような根拠で非該当と判断したのか」を会社として説明できないことが、監査・調査時の大きなリスクになります。
よって採用プロセスに、特定類型該当性の自己申告と誓約、変更時の届出義務を組み込むことが重要です。最低限の設計としては、次の3点です。
1)類型確認:面接又は内定承諾から入社手続の間に、兼業の有無、資金受領の有無、外部契約の有無等を質問し、書面又はワークフローで回答を取得する。
2)誓約:特定類型に該当しないこと、又は該当する場合は会社に報告し、許可や社内承認が得られるまで機微技術にアクセスしないことを誓約させる。
3)証跡保管:確認書と誓約書、判断に使った資料、更新履歴を保管する。 ここで注意すべきは、確認が「外国籍者だけ」を狙い撃ちする運用になっていると、運用上もリスク管理上も歪みが出る点です。特定類型は居住者の「状態」を見るため、制度設計としては「機微技術を扱う部署に配属される者」を基準にして対象を設定すると、説明可能性が上がります。

該非判定とアクセス制限ー許可が要らない状態を「維持する」発想が必要

本人が特定類型に該当しないことが確認できれば、それだけで直ちに全てが解決するわけではありません。提供される技術がリスト規制該当である以上、誰が、いつ、どの範囲にアクセスできるのかを管理できる状態が必要です。 もし特定類型に該当してしまった場合や、将来該当する可能性がある場合には、(1)役務取引許可を取得する、又は(2)許可取得までアクセス制限を行う、のいずれかが必要になります。 アクセス制限は、単に「口頭で注意する」では足りません。サーバー権限、フォルダ分離、ソース管理権限、実験設備の入退室管理、機微会議の招待制、議事録・資料配布制限など、物理的・システム的に遮断できる設計が求められます。

場面 会社が取るべき基本方針 具体策例
特定類型に非該当 通常の輸出管理ルールのもとで提供可能 該非判定書の版数管理、提供範囲の最小化、会議資料の管理、証跡保管
特定類型に該当 許可取得か、許可取得まで遮断 機微フォルダ・サーバー権限の遮断、実験室入退室制限、機微会議の参加制限
入社後に状況変化の可能性がある 変更時の届出と定期更新で早期検知 年1回等の再確認、兼業開始時の事前届出、資金受領条件変更の報告義務

人事が作るべき社内フロー例ー採用から配属後までを一本にする

みなし輸出対応は、人事だけ、研究所だけ、輸出管理だけで完結しません。
採用、配属、技術アクセスの付与は分断されがちなので、一本のフローにして「誰が、どの時点で、何を止められるか」を明確にします。

ステップ 主担当 実施事項 成果物(証跡)
1.対象ポジションの特定 研究所、アウトプットマネジメント リスト規制技術を扱う部署・職務を棚卸し 対象部署一覧、対象技術一覧
2.採用時の特定類型確認 職員 類型①〜③の質問票で自己申告を取得 確認書、回答ログ
3.該当性判断と対応方針決定 アウトプットマネジメント、法務 特定類型該当性の判断、許可要否と暫定措置の決定 判断記録、承認記録
4.入社時誓約と変更届出義務の付与 職員 誓約書取得、変更時の届出義務を就業ルールに組込み 誓約書、同意記録
5.配属時のアクセス設計 研究所、情報システム 権限付与の前提条件を設定(許可取得前は遮断等) 権限付与申請書、設定ログ
6.定期再確認と監査 人材管理および成果管理 年1回等の再確認、変更届出の運用監査 更新確認書、監査記録

よくある失敗と、運用で潰すポイント

失敗例1:採用時に口頭で「兼業ないですよね」と聞いただけで、書面が残っていない。結局、会社として非該当判断の根拠を説明できない。
失敗例2:採用時は確認したが、配属後に共同研究や副業が始まっても把握できず、権限が付与されたままになっている。
失敗例3:誓約書はあるが、情報システムの権限設計が追いつかず、実質的に誰でも機微フォルダにアクセスできる。
これらは、確認の仕組みとアクセス制御の仕組みが分断されていることが原因です。確認の結果が、権限付与ワークフローの前提条件として自動的に効くように設計することが、最も効果が高い対策です。

まとめー外国人採用を止めるのではなく、確認と制御を標準化する

みなし輸出管理は、国内雇用であっても、相手が特定類型に当たる場合には技術提供が輸出とみなされ、外為法第25条に基づく許可(役務取引許可)が必要になり得る、という点に本質があります。
対応の要点は、採用時の特定類型確認(確認書・誓約書・証跡保管)と、配属後の継続管理(変更届出、定期更新、アクセス制限)をセットで運用することです。適切な確認プロセスさえ踏めば、過度に恐れて採用を萎縮させる必要はありません。
機微技術を扱う部署の採用・配属について、質問票と誓約、権限設計、更新運用を「型」として整備し、優秀な人材を適法に活用できる状態を作ることが重要です。

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

この記事の監修者

代表弁護士 有森 文昭弁護士 (東京弁護士会所属)

ARIMORI FUMIAKI

東京大学法学部及び東京大学法科大学院卒。弁護士登録後(東京弁護士会所属)、都内法律事務所で執務。都内法律事務所での執務時に、税関対応・輸出入トラブルをはじめとした通関・貿易に関する問題、労働問題等を中心に100件以上の案件に携わる。その中で、通関・貿易に関する問題についてより広く網羅的な知識を取得し、より高品質なリーガルサービスを提供したいと考え、通関・貿易関係の国家資格である通関士の資格を取得。

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