並行輸入における商標権侵害の判断基準と実務上の対抗策に関する徹底解説 |通関士資格所有の輸出管理・税関事後調査に強い弁護士

並行輸入における商標権侵害の判断基準と実務上の対抗策に関する徹底解説

はじめに―相談事例

【相談者】

千葉県内で輸入雑貨のセレクトショップを経営されているTさん。

Tさんは、欧州の人気キッチンウェアブランド「エトワール(仮名)」の日本国内における独占販売権を取得し、正規代理店として長年ビジネスを展開されてきました。

【相談内容】

「最近、インターネット上の大手モールにおいて、私が扱う『エトワール』の製品が、正規価格よりも三割以上安い価格で大量に出回っています。調査したところ、それらは海外の小売店から直接買い付けられた、いわゆる並行輸入品であることが分かりました。製品自体は本物(真正品)のようですが、正規代理店である当社の売上が激減しており、経営に大きな影響が出ています。お客様からは『あっちの方が安いけれど、何が違うのか』と問い合わせが相次ぎ、対応に苦慮しています。本物であれば、並行輸入を止めることは一切できないのでしょうか。また、一部の業者は製造番号(シリアルナンバー)を削り取って販売していますが、これは法的に問題ないのでしょうか。ブランドの信頼を守るために、どのような法的措置が可能なのか教えてください」

このようなTさんの悩みは、正規代理店や商標権者にとって共通の課題です。並行輸入は「自由貿易の促進」という側面がある一方で、正規ルートの維持やブランド保護との間で激しい対立が生じます。

 

商標権の基本原則と並行輸入の定義

まず、商標法における商標権の役割を理解する必要があります。商標権は、その商標が付された商品が「誰によって作られたか(自他商品識別機能・出所表示機能)」、そして「どの程度の品質を持っているか(品質保証機能)」を保護するための権利です。

 

商標法第25条(商標権の効力)

商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。

 

この条文に基づき、商標権者は登録商標を独占的に使用する権利を持ちますが、海外で正当に流通している商品を第三者が輸入する「並行輸入」については、一定の条件下で商標権の効力が及ばないと解釈されています。これは「消尽論(しょうじんろん)」と呼ばれる法理に基づいています。つまり、商標権者が一度適法に市場へ商品を放出した後は、その商品についての商標権は使い果たされ、その後の転売等を制限することはできないという考え方です。

しかし、この消尽論が国際的な取引においても無制限に適用されるわけではありません。Tさんの事例のように、国内市場の混乱や品質の差異が生じている場合には、商標権侵害が成立する余地があります。

 

並行輸入が適法とされるための「三つの要件」

日本の裁判実務において、並行輸入が商標権侵害にあたらない(実質的違法性がない)とされるための基準は、最高裁判所平成15年2月27日判決(フレッドペリー事件)によって確立されています。以下の三つの要件をすべて満たさなければ、並行輸入は違法となります。

 

真正性の要件

当該商品に付された商標が、外国の商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであること。すなわち、偽ブランド品やコピー品ではないことが前提となります。

 

同一人性の要件

当該外国の商標権者と日本の商標権者(又は独占的通常使用権者)が、同一人であるか、あるいは法律的・経済的に同一視できる関係にあること。これにより、消費者が商品の出所について誤認混同を起こさないことが保証されます。

 

品質管理性の要件

日本の商標権者が当該商品の品質について直接的又は間接的に管理を行っており、並行輸入品と日本の正規品との間に、消費者が当該商標に期待する品質において実質的な差異がないと評価されること。

 

以下の表は、適法な並行輸入と違法な並行輸入の判断基準を整理したものです。この表はワード等の文書作成ソフトへそのまま貼り付けて使用可能です。

 

【並行輸入の適法性判断に関する要件対照表】

判断項目名称|適法とされる状態の詳細内容|違法とされる可能性が高い状態

真正性の確認|外国で適法に商標が付された真正品である|第三者が勝手に商標を付した模倣品である

権利者の関係|国内外の権利者が親子会社や代理店関係|国内外の権利者が全く無関係の第三者

品質の同一性|正規品と実質的に同等の品質を維持している|成分や仕様が異なり保管状態も劣悪

付随的行為|商品そのものをそのまま販売している|タグの除去やシリアルナンバーの抹消

消費者の期待|ブランドの出所や品質に誤解が生じない|正規品と誤認して購入し不利益を被る

 

Tさんのケースでは、輸入されている製品が「エトワール」の真正品であり、国内外の権利者が同一視できる関係であれば、要件(1)と(2)はクリアしていることになります。争点は、要件(3)の「品質管理性」および「商品の同一性」に絞られます。

 

違法な並行輸入と判断される具体的な事例

真正品であっても商標権侵害が成立するケースについて、より詳細に分析します。Tさんが直面している「シリアルナンバーの抹消」などは、まさにこの領域に関わります。

 

同一人性が欠如しているケース

例えば、欧州ではA社が「エトワール」の商標を持ち、日本では全く資本関係のないB社が独自に「エトワール」という名称でキッチンウェアを展開している場合です。このとき、欧州のA社製品(真正品)を日本に輸入して販売することは、日本のB社の商標権を侵害することになります。出所が異なるため、消費者が混同を起こすからです。

 

品質や仕様に実質的な差異があるケース

化粧品や食品において顕著ですが、海外仕様の製品は現地の法律に合わせて成分が配合されており、日本向けに調整された正規品とは成分や香りが異なることがあります。また、電化製品において電圧や安全基準が異なり、日本での使用に支障がある場合も含まれます。これらを「正規品と同じである」かのように販売することは、商標の品質保証機能を害するため、侵害とみなされる傾向があります。

 

商品そのものへの改変行為(シリアルナンバーの抹消等)

Tさんが最も懸念されている「製造番号(シリアルナンバー)の削り取り」は、商標法上の侵害だけでなく、不正競争防止法上の問題も孕んでいます。シリアルナンバーは、メーカーが製品の流通経路を把握し、品質保証やアフターサービスを行うための重要な識別子です。

これを削り取る行為は、以下の理由から違法性が高いと判断されます。

・製品の外観を著しく損ない、ブランドイメージを毀損させる

・万が一のリコール等の際に、製品の特定を困難にし、消費者の安全を脅かす

・「真正な状態での流通」を妨げるものであり、商標の品質保証機能を直接的に毀損する

 

裁判例においても、シリアルナンバーを消去して販売する行為は、商標の機能を害するものとして、並行輸入の適法性を否定する有力な根拠の一つとなっています。

 

薬機法や表示規制との関係

並行輸入品を扱うにあたっては、商標法以外の法令にも注意を払う必要があります。特に化粧品や医薬部外品を並行輸入する場合、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)の規制を受けます。

 

薬機法第61条(化粧品の直接の容器等の記載事項)

化粧品は、その直接の容器又は直接の被包に、次に掲げる事項が記載されていなければならない。

(以下略:名称、製造販売業者の氏名・住所、製造番号等)

 

並行輸入品であっても、日本で販売する際には、日本語での法定表示(ラベル貼り替え)が義務付けられています。これを怠ることは行政処分の対象となりますが、一方で、ラベルを剥がしたり、容器を入れ替えたりする行為そのものが、商標権者から見れば「品質管理の放棄」と映ります。Tさんのライバル業者がこれらの表示義務を適切に果たしていない場合、商標法と併せて薬機法違反の観点からも追及が可能です。

 

正規代理店が行うべき具体的な法的対抗策

Tさんのように、並行輸入によってビジネスが脅かされている権利者(又は独占的販売権者)は、以下のステップで対応を検討すべきです。

 

警告書の送付

まずは相手方に対し、内容証明郵便にて警告書を送付します。ここで重要なのは、単に「並行輸入をやめろ」と主張するのではなく、「なぜ侵害にあたるのか」を理論的に説明することです。具体的には、前述の三要件のうち、どの点が欠けているかを指摘します。例えば、「日本向け仕様とは成分が異なり、品質保証機能が害されている」「シリアルナンバーが削られており、真正な商品とは評価できない」といった主張です。

 

税関への輸入差止申立

並行輸入品が明らかに三要件を満たさない(例えば権利者が全く異なる、あるいは品質が著しく異なる)と判断できる場合、税関に対して輸入差止申立を行うことができます。

 

関税法第69条の11(輸入してはならない貨物)

第1項 次に掲げる貨物は、輸入してはならない。

九 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品

 

税関で受理されれば、水際で貨物を止めることが可能となり、市場への流入を未然に防ぐことができます。ただし、並行輸入の場合は「侵害か否か」の判断が極めて繊細であるため、税関への申立書には高度な法的議論と証拠の提出が求められます。

 

(3)販売差止請求および損害賠償請求の提訴

警告に応じない場合は、裁判所に対して販売の差し止めや、在庫の廃棄、さらには失われた利益に対する損害賠償を請求します。

 

商標法第36条(差止請求権)

第1項 商標権者又は専用使用権者は、自己の商標権又は専用使用権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。

 

裁判においては、正規品と並行輸入品の間にどのような「実質的差異」があるかを客観的に立証することが勝敗を分けます。

 

以下の表は、権利者が講じるべき対抗措置のフローチャートを整理したものです。

 

【違法な並行輸入への対抗措置ステップ一覧】

実施フェーズ名称|具体的なアクション内容|目的と効果

実態調査の実施|並行輸入品を購入し、仕様、成分、梱包状態を確認|侵害の証拠収集と論点整理

リーガルチェック|最高裁三要件に照らし、侵害の可能性を判定|勝訴の見込みと戦略立案

警告書の送付|内容証明郵便による販売停止と在庫廃棄の要求|任意での解決と悪意の立証

税関申告の活用|輸入差止申立を行い、水際での取締りを強化|市場流入の物理的な阻止

法的措置の発動|差止請求訴訟や損害賠償請求の提訴|強制力による権利回復と損害補填

 

「不当な並行輸入阻止」のリスク(独占禁止法との関係)

Tさんが対抗策を講じる際、一点だけ注意しなければならないのが「独占禁止法」との関係です。真正品であり、かつ前述の三要件をすべて満たしている適法な並行輸入を、単に「安いから」という理由だけで、不当な手段(例えば、海外の輸出元に圧力をかけて供給を止めさせる、小売店に並行輸入品を扱わないよう強要するなど)を用いて妨害することは、独占禁止法違反(不公正な取引方法)とされるリスクがあります。

法的措置は、あくまで「商標の機能が害されている」という正当な理由に基づいて行う必要があります。

 

専門家としての弁護士によるリーガルサポート

並行輸入の問題は、形式的な条文の当てはめだけでは解決できず、過去の膨大な裁判例や、最新の税関実務に通じている必要があります。当事務所では、代表弁護士が通関士の資格を有しており、以下のような高度に専門的なサポートを提供しております。

 

1.真正品の比較分析と侵害論理の構築

Tさんの扱う正規品と、市場に出回る並行輸入品を詳細に比較し、成分の差異やシリアルナンバーの抹消状況などから、最高裁三要件に基づいた「侵害の論理」を組み立てます

2.証拠収集のコーディネート

テストクロージング(試買調査)から、公的機関による成分分析、さらには物流経路の特定調査まで、裁判や税関申告で勝てる証拠の収集を指揮します

3.税関との密接な連携

差止申立において、税関職員が迷うことなく侵害を認定できるよう、真贋判定のポイントを整理した詳細な資料を作成し、受理を確実にします

4.包括的なブランド保護戦略の立案

商標権だけでなく、不正競争防止法や意匠権、さらには薬機法等の他法令を組み合わせ、多角的なアプローチで並行輸入業者に対抗します

 

正規代理店としてのTさんの努力が、不適正な並行輸入によって不当に踏みにじられることがないよう、法律の力でブランドの秩序を取り戻します。

 

結論:グレーゾーンを見極めるための予防法務

「本物なら何をしても自由だ」という誤解が、並行輸入ビジネスに関わる業者の中には根強く存在します。しかし、本稿で解説した通り、日本の商標法は、消費者の信頼と商標の品質保証機能を守るために、一定の条件下で真正品の輸入であっても規制する道を開いています。

Tさんのように、正規代理店として品質維持にコストをかけ、ブランドを育ててきた方にとって、シリアルナンバーを削り取り、適切な管理もなしに安売りを強行する業者は、法的に追及されるべき対象となり得ます。

一方で、並行輸入ビジネスを検討されている事業者の方にとっても、そのスキームが「三つの要件」を遵守しているかどうかを事前に精査することは、巨額の損害賠償リスクを避けるために不可欠なステップです。

輸出入や通関に関するトラブル、商標権侵害を巡る紛争、税関対応等でお悩みの場合には、ご遠慮なく当事務所までご相談ください。通関実務と知的財産権の両面に精通した専門家として、皆様の正当なビジネスを守るために全力を尽くします。

お悩みをご相談いただくことで、現在の状況を法的に整理し、最善の解決策を見出すことができます。皆様からのお問い合わせを、心よりお待ちしております。

この記事の監修者

代表弁護士 有森 文昭弁護士 (東京弁護士会所属)

ARIMORI FUMIAKI

東京大学法学部及び東京大学法科大学院卒。弁護士登録後(東京弁護士会所属)、都内法律事務所で執務。都内法律事務所での執務時に、税関対応・輸出入トラブルをはじめとした通関・貿易に関する問題、労働問題等を中心に100件以上の案件に携わる。その中で、通関・貿易に関する問題についてより広く網羅的な知識を取得し、より高品質なリーガルサービスを提供したいと考え、通関・貿易関係の国家資格である通関士の資格を取得。

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