経済安全保障推進法が輸出管理実務に与える影響
輸出安全管理体制の構築近年、ニュースで頻繁に耳にする「経済安全保障(Economic Security)」。
米中対立や地政学的リスクの高まりを受け、国益を守るために経済活動を管理・規制する動きが世界的に加速しています。日本でも2022年に「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(経済安全保障推進法)」が成立しました。
「輸出管理(外為法)」と「経済安全保障」は、車の両輪のような関係です。外為法が「危険なものを出さない」ための法律だとすれば、経済安全保障推進法は「自国の強みを守り、弱みを補強する」ための法律と言えます。今回は、この新法が企業の輸出・技術管理実務にどのような影響を与えるのか解説します。
1 サプライチェーンの強靭化
経済安全保障推進法の柱の一つが「サプライチェーンの確保」です。
半導体、蓄電池、医薬品、重要鉱物などの「特定重要物資」について、海外への過度な依存を減らし、安定供給体制を確保することが目的です。
企業にとっては、自社の調達ルート(サプライチェーン)に潜むリスクを見直すきっかけとなります。例えば、調達先が特定国(懸念国)の企業である場合、将来的に輸出規制や制裁によって部品が入手できなくなるリスクがあります。また、政府の支援を受けて重要物資の生産設備を導入する場合、その設備や技術の海外移転(輸出)に対して、従来以上に厳しい管理が求められることになります。
2 特許出願の非公開制度
輸出管理の実務に直接関わる大きな変化として、「特許出願の非公開制度」が導入されました(2024年5月施行)。これまで、特許を出願すると原則として1年半後に内容が公開されていました。しかし、核技術や先進的な武器技術など、公になれば安全保障上のリスクとなる発明については、国が審査を行い、公開を留保(非公開化)する制度です。
非公開とされた発明については、外国への出願が禁止されるだけでなく、その技術内容を開示すること自体が制限されます。 企業の研究開発部門や知財部門は、「この発明は非公開対象になるか?」を検討する必要があり、もし非公開指定された場合は、その技術情報の管理(アクセス制限や情報漏洩防止)を徹底しなければなりません。これは、外為法の技術管理(役務取引)とも密接にリンクする実務です。
3 基幹インフラの事前審査
電気、ガス、通信、金融などの「特定社会基盤役務(基幹インフラ)」を担う事業者が、重要な設備を導入したり、維持管理を外部委託したりする場合、政府による事前審査が義務付けられました。 これは、インフラ設備に「バックドア(不正な操作口)」や「キルスイッチ(停止装置)」が仕込まれるのを防ぐためです。
インフラ事業者に製品を納入するメーカーやベンダー側も、自社製品の部品構成や、開発委託先の信頼性について詳細な説明を求められることになります。「安価だから」という理由だけで懸念国の製品を使っていると、日本の重要インフラ市場から排除される可能性があるのです。
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東京大学法学部及び東京大学法科大学院卒。弁護士登録後(東京弁護士会所属)、都内法律事務所で執務。都内法律事務所での執務時に、税関対応・輸出入トラブルをはじめとした通関・貿易に関する問題、労働問題等を中心に100件以上の案件に携わる。その中で、通関・貿易に関する問題についてより広く網羅的な知識を取得し、より高品質なリーガルサービスを提供したいと考え、通関・貿易関係の国家資格である通関士の資格を取得。