取引の顧客は誰ですか? 懸念顧客(ユーザー)の審査とエンドユース確認
輸出安全管理体制の構築輸出管理の実務において、「何を(貨物・技術)」輸出するかという該非判定と同じくらい重要なのが、「誰に(需要者)」「何のために(用途)」輸出するかという「取引審査」です。
特にキャッチオール規制への対応では、このプロセスがコンプライアンスの要となります。いくら製品が非該当(民生品)であっても、顧客がテロリスト支援国家の関連企業であったり、用途が兵器開発であったりすれば、その取引は中止するか、経済産業大臣の許可を得なければなりません。 今回は、適切な取引審査(KYC:Know Your Customer)の進め方について解説します。
1 顧客審査の具体的なステップ
取引審査は、契約を結ぶ前、あるいは見積もりを出す段階で行うのが理想的です。審査が遅れると、営業担当者が受注してしまった後に「輸出できない」という事態になり、トラブルの原因となります。
審査では、以下の3点を確認します。
①需要者の実在性:ペーパーカンパニーではないか? 住所や連絡先は実在するか? ホームページの内容は不自然ではないか?
②懸念リストとの照合:経済産業省の「外国ユーザーリスト」や、米国の「Entity List(エンティティ・リスト)」等に掲載されていないか?
③エンドユース(最終用途)の確認:購入した製品を何に使うのか? 平和目的・民生用途であるか?
これらの確認結果を「取引審査票」や「顧客チェックシート」などの記録として残し、承認決裁を得るフローを社内に構築する必要があります。
2 「外国ユーザーリスト」の活用
日本企業が必ず参照すべきなのが、経済産業省が公表している「外国ユーザーリスト」です。これは、大量破壊兵器等の開発等に関与している懸念がある海外の組織(企業、大学、研究所など)をリストアップしたものです。
輸出先がこのリストに掲載されている場合、キャッチオール規制の「客観要件」に該当する可能性が極めて高くなります。原則として、許可申請が必要になると考えるべきでしょう。 ただし、リストに載っていないからといって「安全」と即断してはいけません。リストはあくまで「懸念が確認された組織」の一部に過ぎず、名前を変えて活動している場合や、ダミー会社を使っている場合もあるからです。
3 取引に潜む「不審な兆候(Red Flags)」
リストに掲載されていない顧客であっても、取引の過程で「何かおかしい」と感じる不自然な点があれば、それは危険信号(Red Flags)かもしれません。米国の商務省などが公表しているガイダンスを参考に、以下のような兆候がないか現場の営業担当者に注意喚起しましょう。
4 おわりに:営業部門の協力が不可欠
取引審査は、管理部門だけで行うものではありません。顧客と直接接する営業担当者こそが、こうした「違和感」に気づくことができる最初の防波堤です。 「売上を上げたい」という営業のモチベーションと、「リスクを回避したい」という管理部門の役割が対立することもありますが、不正輸出が発覚すれば会社そのものが存続の危機に瀕します。
当事務所では、営業部門向けの研修や、実効性のある取引審査票の作成、懸念顧客への対応アドバイスなど、現場のビジネススピードを落とさずにコンプライアンスを確保する仕組み作りをサポートします。「この取引、進めても大丈夫か?」と迷った際は、契約締結前にご相談ください。
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東京大学法学部及び東京大学法科大学院卒。弁護士登録後(東京弁護士会所属)、都内法律事務所で執務。都内法律事務所での執務時に、税関対応・輸出入トラブルをはじめとした通関・貿易に関する問題、労働問題等を中心に100件以上の案件に携わる。その中で、通関・貿易に関する問題についてより広く網羅的な知識を取得し、より高品質なリーガルサービスを提供したいと考え、通関・貿易関係の国家資格である通関士の資格を取得。