需要者・用途の確認プロセスとその実務的課題 |通関士資格所有の輸出管理・税関事後調査に強い弁護士

需要者・用途の確認プロセスとその実務的課題

キャッチオール規制の実務では、「誰が」「何の目的で」輸出品を使用するかを確認することが最も重要です。
これを怠ると、外為法違反となるおそれがあります。

本稿では、需要者・用途の確認手順と、その際に直面する現場の課題を整理します。 

確認の目的と法的根拠

キャッチオール規制では、輸出者は「用途確認(for what purpose)」と「需要者確認(to whom)」を自らの責任で行わなければなりません。
この確認義務は、「知っていた」だけでなく「知ることができた」場合にも適用されるため、企業側に一定の調査努力が求められます。
つまり、形式的なチェックではなく、「合理的な注意義務を尽くしたか」が問われるのです。 

需要者・用途確認のプロセス

実務上、推奨される確認の流れは以下のとおりです。

①最終需要者の特定
販売代理店経由の取引であっても、最終的な使用者(エンドユーザー)を明確にする。

②用途の明確化
使用目的・場所・具体的なプロジェクト名を確認。曖昧な回答の場合は再質問。

③需要者の背景調査
取引先企業の事業内容、軍需関連事業の有無、役員構成、所在国のリスクを調査。

④書面確認
「用途確認書」または「エンドユーザー証明書(EUC)」を入手・保存。

⑤社内審査・決裁
輸出管理責任者・法務部門による二重チェックを経て輸出判断を確定。 

この手順を文書化し、社内規程に定めることで、監査・行政調査時にも「適正な確認体制」を立証できます。

現場でよくある課題

実際の企業現場では、次のような課題が頻繁に発生します。

①代理店経由で最終需要者が不明確
契約上、代理店に「最終需要者情報の開示義務」を明記する。

②顧客が情報開示を拒む
「経産省の法令遵守上必要な確認である」と説明し、理解を得る。

③外国語での用途確認の困難
英文テンプレートを用意し、社内で統一した質問票を運用する。

④研究機関での共同研究目的の曖昧さ
研究テーマ、資金源、研究成果の利用予定を確認。特に軍事的研究資金の有無を明示させる。

これらの対応を仕組化しなければ、担当者の勘や経験に依存した属人的運用となり、法的リスクが高まります。 

弁護士としての視点「確認して終わり」ではなく「記録して残す」

弁護士の立場から見ると、用途・需要者確認の最大のポイントは、「記録の保存」です。
外為法の違反調査では、「確認したか」と同時に「確認した証拠が残っているか」も問われます。
したがって、以下のような体制を整備することが望ましいです。

①確認書・メール記録・面談メモを電子保存(PDF化・社内共有)
②判定理由・判断者名を明記した内部決裁書の作成
③「許可不要」と判断した場合にも、その根拠(例:相手国、用途、非該当理由)を明記
④定期的な内部監査、外部監査で確認手続の実施状況を点検 

このように、確認行為そのものよりも判断の過程を示した「透明な記録」が重要です。
単に取引審査票を残すだけでは不十分です。
輸出管理は疑わしきは慎重に『確認したら必ず残す』を原則にすべきでしょう。 

弊事務所では、外為法に関する一般的なご相談にとどまらず、輸出管理の体制構築や外部監査等を幅広く取り扱っております。
少しでもご不安な点等ございましたら、お気軽にお問い合わせください。

この記事の監修者

代表弁護士 有森 文昭弁護士 (東京弁護士会所属)

ARIMORI FUMIAKI

東京大学法学部及び東京大学法科大学院卒。弁護士登録後(東京弁護士会所属)、都内法律事務所で執務。都内法律事務所での執務時に、税関対応・輸出入トラブルをはじめとした通関・貿易に関する問題、労働問題等を中心に100件以上の案件に携わる。その中で、通関・貿易に関する問題についてより広く網羅的な知識を取得し、より高品質なリーガルサービスを提供したいと考え、通関・貿易関係の国家資格である通関士の資格を取得。

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