中小企業・大学に求められる「輸出管理」とは |通関士資格所有の輸出管理・税関事後調査に強い弁護士

中小企業・大学に求められる「輸出管理」とは

「外為法は大企業のための制度」、「大学・研究機関や小規模事業者には関係ない」、このような考えは、非常にリスクの高いものと言わざるを得ません。
実際には、中小企業や大学・研究機関でも外為法の規制対象になる技術・製品を扱う場面が急増しています。
そこで今回は、これらの組織に求められる「輸出管理」についてご説明します。法的責任の所在を明確にし、どこから対応を始めるべきかを見極めることが重要です。

「組織としての責任」が問われる時代

外為法違反が発覚した際、処分や指導の対象となるのは、個人だけではなく企業や大学などの組織そのものも対象となります。
仮に、現場レベルでのミスであっても、「体制が不十分だった」、「指導がなされていなかった」等の理由で、組織全体が責任を問われるのが現在の運用です。
たとえば次のような事案では、組織の「管理責任」が厳しく追及されます。

  • ①担当者が該非判定を怠ったまま部品を輸出した中小企業
  • ②外国人留学生に対し、事前許可なしで機微情報が含まれた研究資料を提供した大学
  • ③「技術提供」に該当する情報共有を無自覚に研究者が行ってしまった場合の所属大学

法令遵守は「社長任せ」、「研究者任せ」では不十分

外為法は、企業・大学に対し、組織的なコンプライアンス体制の構築を求めています。
特定の個人任せにしたり、「知らなかった」、「忙しかった」等の言い訳は通用しません。
とくに中小企業にありがちなのが、「該非判定は商社に任せている」、「輸出先が安全な国だから問題ないと思っていた」といった誤解です。しかしながら、最終的に輸出主体となる企業自身が、許可の有無を正しく判断し、必要な申請を行う義務があることを絶対に忘れてはなりません。

大学・研究機関でも「教育機関だから例外扱いされる」という過信、誤解は禁物です

大学や研究機関では、学問の自由や国際交流を尊重するあまり、輸出管理に対する意識が薄れがちです。しかしながら、外為法は教育機関、研究機関であってもそれだけで例外とはしていません。
たとえば、次のような活動も「技術提供」として規制対象となり得ます。

  • ①外国人研究者に向けたラボ内講習
  • ②海外の大学とのオンライン共同研究
  • ③論文に含まれる機微情報の事前開示

大学には、「どの研究が該当するのか」「提供先に問題はないか」を判断するための内部管理制度(内規や審査体制)の整備が強く求められています。

「管理者の選定」と「社内ルールの整備」から始めましょう

外為法対応を始めるにあたり、以下のような実務ステップが推奨されます。

  • ①輸出管理責任者の任命(経営層または研究部門の責任者が望ましい)
  • ②社内規程・マニュアルの整備(技術提供の判断基準、許可申請フローなど)
  • ③社内教育の実施(担当者だけでなく、研究者・技術者も対象)
  • ④チェック体制の導入(該非判定・契約時確認など)

これらは、中小企業であっても実現可能なレベルから取り組んでいくことが重要です。
体制整備こそが、組織の信用と取引機会を守る出発点となることは改めて押さえておくべきポイントとなるでしょう。

弊事務所では、組織における安全保障輸出管理体制の構築サポートや、日常的な該非判定のサポート、外部監査の実施サポート等、幅広くサポートを行っておりますので、ご関心がありましたらお気軽にお問い合わせください。

この記事の監修者

代表弁護士 有森 文昭弁護士 (東京弁護士会所属)

ARIMORI FUMIAKI

東京大学法学部及び東京大学法科大学院卒。弁護士登録後(東京弁護士会所属)、都内法律事務所で執務。都内法律事務所での執務時に、税関対応・輸出入トラブルをはじめとした通関・貿易に関する問題、労働問題等を中心に100件以上の案件に携わる。その中で、通関・貿易に関する問題についてより広く網羅的な知識を取得し、より高品質なリーガルサービスを提供したいと考え、通関・貿易関係の国家資格である通関士の資格を取得。

この記事と関連するコラム


Warning: Trying to access array offset on false in /home/replegal/fefta-fa.com/public_html/wp-content/themes/export-duties/single-column.php on line 75

Warning: Attempt to read property "slug" on null in /home/replegal/fefta-fa.com/public_html/wp-content/themes/export-duties/single-column.php on line 75

安全保障上のリスク~違反事例に学ぶ~

外為法に基づく安全保障輸出管理は、単なる形式的な手続きではなく、国家の安全と企業の存続に直結する重大な制度です。この対応を怠った場合、仮に違反の意図がなかったとしても、重いペナルティを受ける可能性があります。 今回は、実際の違反事例をもとに、企業や大学が直面しうるリスクと損失の大きさ等をご紹介します。 違反が発覚した際の主な法的リスク 外為法に違反した場合、以下のような法的措置が科される...

法務部門の役割と弁護士のサポート ― 輸出管理体制を強化するために

輸出管理は営業部門や技術部門の課題と考えられがちですが、実際には法務部門が中心となり、組織横断的に関与すべきテーマです。 さらに、複雑化する国際環境や頻繁な法改正に対応するためには、外部弁護士のサポートを得ることも極めて有効です。 本日は、法務部門が果たすべき役割と、弁護士による支援のあり方についてご紹介します。 法務部門の役割 ①規制該非判定の支援 技術部門が判断に迷う場合...

貨物別に見る規制品目の具体例と注意点その2~化学物質編~

化学物質や化学製品は、その用途によっては大量破壊兵器や化学兵器の開発に利用されるおそれがあるため、外為法による輸出規制の重要分野の一つとされています。 中小の化学メーカーや大学・研究機関が開発・取り扱う製品にも、規制対象となるものが多く含まれており、正確な該非判定の実施が不可欠です。 外為法における化学物質の規制枠組み リスト規制で対象となる大量破壊兵器の原材料や化学兵器の前駆体となる物...

みなし輸出の概念と改正の本質

「みなし輸出」とは、簡単に言うと、外国に貨物を物理的に輸出するのではなく、日本国内で外国人に技術を提供する行為を、実質的に「輸出」と見なして規制する制度です。 2022年には、この「みなし輸出」制度に対して大幅な改正が行われました。 各企業や大学・研究機関にとっては改正への対応は非常に重要となります。 そもそも「みなし輸出」とは? 外為法では、技術提供に関する輸出規制の一環として、以下...

クラウド経由でのデータ共有は「技術提供」に該当するか?

近年、クラウドストレージやオンライン共有ツールを使ったデータのやり取りが、企業や大学の現場で日常的に行われています。しかし、このようなデジタル情報の取り扱いにも、外為法に基づく輸出管理が適用されるケースが相当程度存在することをご存知でしょうか。 今回は、クラウド経由での技術・情報共有が「技術の提供」として規制対象になるのかどうかについて、ご説明いたします。 データを「国外に保存・アクセス」...