ローズウッド材を使用したギターの海外輸出
ワシントン条約違反の対応【相談内容】
当社は、ギターやウクレレを製造・販売している楽器メーカーです。近年、海外からの注文が増えており、今後はアメリカやヨーロッパの代理店に向けて、当社製品を輸出する予定です。
当社のギターには、指板(フィンガーボード)やボディの一部に「ローズウッド(紫檀)」と呼ばれる木材を使用しているものがあります。以前、ニュースで「ローズウッドがワシントン条約で規制対象になった」と聞いたことがあるのですが、すでに加工された完成品のギターとして輸出する場合でも、何か特別な手続きが必要になるのでしょうか。
なお、輸出は個人使用ではなく、海外代理店に販売する目的で行います。1回の出荷では、数十本単位でまとめて送ることを想定しています。
【弁護士からの回答】
まず確認すべきなのは、使用しているローズウッドの種類と、現在のワシントン条約上の取扱いです。
ローズウッドのうち、ツルサイカチ属(Dalbergia spp.)は、2017年以降、原則としてワシントン条約(CITES)の附属書IIに掲載され、国際取引に一定の規制が及ぶことになりました。もっとも、その後の2019年11月26日の附属書改正により、附属書IIのローズウッドについては、楽器や楽器部品・附属品に関する取扱いが大きく変更されています。経済産業省のFAQでも、附属書IIのツルサイカチ属(Dalbergia spp.)について、これらの種を使用した楽器、楽器部品および附属品は、商業目的か否かを問わず、ワシントン条約に基づく規制の対象外となったと説明されています。
したがって、現在のルールを前提にすると、相談のギターが「附属書IIのローズウッド」を使用した完成楽器であり、ブラジリアン・ローズウッド(Dalbergia nigra)を含まないものであれば、2017年当時の理解のまま一律に「輸出承認が必須」と考えるのは正確ではありません。完成したギター、完成した楽器部品、完成した楽器附属品については、ワシントン条約上の許可が不要となる場合があります。
ただし、ここで注意すべき重要な点があります。附属書Iに掲載されているブラジリアン・ローズウッド(Dalbergia nigra)については、この2019年の取扱変更の対象ではありません。経済産業省も、ブラジリアン・ローズウッドを使用した楽器や最終製品を輸出入する場合には、従前どおり外為法に基づく輸出入手続が必要であるとしています。ウェブこのため、まずは自社製品に使用されているローズウッドの正確な学名を確認し、附属書IIのローズウッドなのか、附属書Iのブラジリアン・ローズウッドなのかを切り分けることが出発点になります。
目次
1 現在の基本ルール
ローズウッドを使用したギターの輸出については、次のように整理できます。
第一に、使用木材が附属書IIのツルサイカチ属(Dalbergia spp.)であり、かつ、輸出する物が完成した楽器である場合、現在は原則としてワシントン条約に基づく輸出許可の対象外となります。これは、非営利目的の演奏旅行だけでなく、商業目的の取引についても同様です。経済産業省は、2019年11月26日の附属書改正により、附属書IIのローズウッドを使用した楽器、楽器部品および附属品は、商業目的か否かを問わず規制対象外となったと明示しています。
第二に、完成楽器ではなく、木材そのもの、未完成の部材、ブランク材、単なる木材パーツなどを輸出する場合には、別途規制対象となる可能性があります。注釈#15は、すべてのローズウッド関連物を無条件に自由化したものではなく、対象外となる範囲を限定しています。完成した楽器か、完成した楽器部品・附属品か、それとも木材・未完成部材なのかによって結論が変わります。
第三に、ブラジリアン・ローズウッド(Dalbergia nigra)を使用している場合には、附属書IIのローズウッドとは別に扱う必要があります。ブラジリアン・ローズウッドは附属書Iに掲載されており、商業取引については極めて厳格な規制が及びます。ギターのボディ、指板、ブリッジ、ヘッドプレートなどに古いハカランダ材が使用されている場合には、完成楽器であっても「附属書IIのローズウッド楽器だから許可不要」とは判断できません。
2 「10kg以下」の例外との関係
相談内容では、数十本単位でまとめて出荷する予定とのことです。この点について、以前の情報では「ローズウッド部分の重量が10kg以下であれば例外になる」「1回の積荷ごとに10kgを超えると許可が必要になる」と説明されることがありました。
しかし、現在の経済産業省の説明では、附属書IIのローズウッドについて、①楽器・楽器部品・附属品の例外と、②ローズウッド部分の重量が最大10kgを上限とする最終製品の例外が、別個に整理されています。すなわち、附属書IIのローズウッドを使用した「楽器」については、それ自体が規制対象外とされており、10kg以下の最終製品の例外だけで処理する必要はありません。
もっとも、税関での確認を円滑にするためには、インボイス等に、対象製品が附属書IIのローズウッドを使用した完成楽器であること、またブラジリアン・ローズウッドではないことを明示しておく実務対応が重要です。経済産業省も、附属書IIのローズウッドであること、またはブラジリアン・ローズウッドではないことをインボイス等に明示し、税関で規制対象外であることを確認できるようにする必要があると説明しています。
したがって、数十本をまとめて輸出する場合でも、附属書IIのローズウッドを使用した完成ギターである限り、単に本数が多いことや合計重量が大きいことだけで、直ちにワシントン条約上の輸出許可が必要になるとはいえません。他方で、ローズウッド材そのものの輸出や、完成楽器に該当しない部材の輸出、ブラジリアン・ローズウッドを含む製品の輸出では、別途慎重な確認が必要です。
3 まず確認すべき「学名」
実務上、最も重要なのは、使用している木材の学名を特定することです。
「ローズウッド」「紫檀」「インディアンローズ」「マダガスカルローズ」「ハカランダ」といった名称は、商業上の呼称として使われることがありますが、ワシントン条約上の判断では、学名に基づく確認が必要です。たとえば、インディアン・ローズウッドであれば Dalbergia latifolia、シッソーであれば Dalbergia sissoo、ブラジリアン・ローズウッドであれば Dalbergia nigra というように、種ごとの確認が求められます。
特に、ブラジリアン・ローズウッド(Dalbergia nigra)かどうかは、必ず確認してください。附属書IIのローズウッドを使用した完成楽器であれば、現在は規制対象外となる可能性が高い一方、Dalbergia nigra は附属書Iに掲載されており、完成楽器であっても同じ扱いにはなりません。経済産業省のFAQでも、ブラジリアン・ローズウッドについては、2019年の附属書IIローズウッドの取扱変更の対象外であり、従前どおり外為法に基づく輸出入手続が必要とされています。
メーカーとしては、仕入先から、使用材の学名、原産国、伐採・流通の適法性を示す資料、購入時のインボイス、仕入証明書、材木業者の証明書などを取得し、製品ロットと紐づけて保管しておくべきです。税関や取引先から確認を求められた場合に、単に「ローズウッドではあるが種類は不明」と回答する状態では、出荷停止や追加説明を求められるリスクがあります。
4 インボイス・通関書類での表示
附属書IIのローズウッドを使用した完成ギターとして輸出する場合であっても、通関実務上は、書類の記載が重要になります。
経済産業省は、附属書IIのローズウッドがワシントン条約の適用除外に該当するものとして輸出入する場合、附属書IIのローズウッドであること、またはブラジリアン・ローズウッドではないことをインボイス等に明示し、税関で確認できるようにする必要があるとしています。ウェブしたがって、インボイス、パッキングリスト、製品仕様書などには、少なくとも次のような情報を整理して記載しておくことが望ましいでしょう。
- 製品が完成したギターであること
- 使用しているローズウッドの学名
- 当該木材が附属書IIの Dalbergia spp. であること
- Dalbergia nigra(ブラジリアン・ローズウッド)ではないこと
- ローズウッド使用箇所(例:指板、ブリッジ、ボディの一部)
- 必要に応じて、仕入先証明書や材の由来を示す資料があること
このような記載をしておくことで、税関で「ローズウッド使用製品」として確認を受けた場合でも、附属書IIの完成楽器として規制対象外であることを説明しやすくなります。
5 輸入国側の確認も必要
日本側でワシントン条約上の輸出許可が不要と整理できる場合でも、輸入国側の通関実務や国内規制の確認は不可欠です。
アメリカやEUでは、CITESのほか、植物・木材の合法性、違法伐採対策、通関時の申告、野生動植物関連規制などが問題となる場合があります。また、各国の実務運用は更新されることがあり、通関業者や現地代理店が求める書類も異なることがあります。完成楽器であっても、輸入者側で追加説明資料やメーカー証明書を求められることは十分にあり得ます。
そのため、輸出前に、現地代理店、通関業者、必要に応じて現地の専門家を通じて、当該国での輸入時の必要書類を確認しておくべきです。日本側で「CITES許可不要」と判断できる場合でも、現地通関で説明がつかずに貨物が留め置かれると、納期遅延、保管費用、返品、取引先とのトラブルにつながります。
6 社内で整備すべき管理体制
楽器メーカーとして海外展開を進めるのであれば、ローズウッド材については、製品ごと・ロットごとの管理体制を整備しておくことが重要です。
具体的には、使用木材の学名、仕入先、仕入時期、原産国、適法取得を示す資料、製品への使用箇所、出荷先、出荷日を社内で追跡できるようにしておくべきです。特に、古い在庫材や限定モデル、高級機種では、ブラジリアン・ローズウッドやその他の規制対象材が使われている可能性もあります。通常モデルでは許可不要と整理できる場合でも、特定モデルだけ別の手続が必要になることがあります。
また、商品ページやカタログで「ハカランダ」「ブラジリアン・ローズウッド」「ヴィンテージ・ローズウッド」などの表示をしている場合には、実際の使用材との整合性も確認してください。販売促進上の表現と、通関・規制上の説明が食い違うと、税関や取引先から疑義を持たれるおそれがあります。
7 まとめ
ローズウッドを使用したギターの輸出については、2017年当時の規制強化だけを前提に「完成品であっても必ず輸出承認が必要」と考えるのは、現在の実務としては正確ではありません。2019年11月26日の改正後、附属書IIのローズウッドを使用した完成楽器、楽器部品、楽器附属品については、商業目的か否かを問わず、ワシントン条約に基づく規制対象外とされています。
もっとも、ブラジリアン・ローズウッド(Dalbergia nigra)を使用している場合は別です。同材は附属書Iに掲載されており、完成楽器であっても従前どおり外為法に基づく輸出入手続が必要となります。ウェブしたがって、輸出前には、使用材の学名を確認し、附属書IIのローズウッドであること、またはブラジリアン・ローズウッドではないことを、インボイス等で明示できる体制を整える必要があります。
海外代理店向けに継続的に輸出する場合には、単発の通関対応ではなく、使用木材の調査、証明書類の整備、インボイス記載、現地通関確認までを一体として管理することが重要です。ローズウッド材を使用した製品を安心して海外展開するためには、輸出前の段階で、使用木材の該当性と必要書類を確認しておくことをお勧めします。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。
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東京大学法学部及び東京大学法科大学院卒。弁護士登録後(東京弁護士会所属)、都内法律事務所で執務。都内法律事務所での執務時に、税関対応・輸出入トラブルをはじめとした通関・貿易に関する問題、労働問題等を中心に100件以上の案件に携わる。その中で、通関・貿易に関する問題についてより広く網羅的な知識を取得し、より高品質なリーガルサービスを提供したいと考え、通関・貿易関係の国家資格である通関士の資格を取得。