日本法以外に注意すべき規制 |通関士資格所有の輸出管理・税関事後調査に強い弁護士

日本法以外に注意すべき規制

仮相談事例

医療機器メーカーの法務担当Bさんは、当社が日本国内で製造している検査装置を、イランの病院に販売し輸出する案件を担当しています。
装置は日本製の民生用検査装置であり、日本の外為法上はリスト規制に非該当で、用途確認等のキャッチオール対応を行えば輸出できる見込みと整理しています。
もっとも、当該装置には米国メーカーから輸入したセンサー部品が組み込まれており、社内の価格情報ベースで装置全体価格の約十五%を占めています。
技術部門から「米国の部品が入っているなら、米国の許可も必要ではないか。」と指摘がありました。
日本製品であるにもかかわらず米国の許可が必要になるのでしょうか、また、今すぐ何を止め、どこを確認し、どう記録化すべきでしょうか。

第1 まず一次停止する範囲(出荷だけ止めても足りません)。

最初に申し上げますと、止めるべきは「出荷」だけではありません。
イラン向け取引は、貨物の移動だけでなく、契約締結、受注確約、保守準備、遠隔サポート準備、ソフトウェア提供準備、決済手配が並行して走るため、途中でOFACや銀行実務で詰まると、現場に手戻りと説明コストが残ります。
したがいまして、一次停止は、出荷、確約、通関準備、保守スキームの立上げ、遠隔サポートの準備、決済条件の確定までを含めて行うのが実務的です。

表1 一次停止チェックリスト(現場向け)。
対象 停止する行為 理由
物流 出荷、船積、通関手配、フォワーダー指示。 EAR又はOFACで不可となった場合に回収困難となるためです。
契約 受注確約、納期コミット、保守契約締結、条件確定。 後戻りが難しく、ファシリテーションや関連取引の論点が広がるためです。
サービス 遠隔サポート準備、保守部品の手配、ソフトウェア更新の準備。 OFACとEARは貨物以外のサービスやソフトも論点になるためです。
決済 ドル建て見積、米国金融機関が介在し得る送金手配の確定。 決済経路がOFAC上の地雷になりやすく、銀行側で停止しやすいためです。

日本法上の整理と限界(社内説明の土台)

日本の外為法上、貨物輸出は外国為替及び外国貿易法第四十八条第一項が許可等の枠組みを置いています。
技術提供や役務取引は同法第二十五条第一項が許可等の枠組みを置いています。
日本法上はリスト規制非該当で、キャッチオールとして用途確認、需要者確認等の手続を踏めば輸出できるという整理は、日本法の世界では一定の合理性がございます。
しかし、対イラン取引は「日本法に適合していれば安全」という類型ではありません。
米国由来の部品、ソフトウェア、技術が混在すると、外国製品であってもEARの適用を受け得ますし、OFAC規制は取引への関与態様次第で広く問題になります。 
このため、社内説明は「日本法上は整理できても、米国法で止まる可能性が高いので、一次停止して米国法側を確認します。」が最短になります。

EARのデミニミスが「日本製品」をEAR対象にする仕組み。 

現場で多い誤解は「日本で作ったのだから日本法だけ」「米国法は米国から直接輸出する場合だけ」です。
EARは、外国製品目であっても、米国原産の管理対象コンテンツを一定割合超で組み込む等の場合に、当該外国製品目をEAR対象とする枠組みを持っています。
根拠条文は15CFR734.4であり、同条(c)が十%デミニミス・ルール、同条(d)が二十五%デミニミス・ルールを定めています。 
同条は、二十五%ルールがカントリーグループE:1又はE:2以外向けである旨を明示していますので、イラン向けでは十%基準が問題になるという理解が実務の出発点になります。 
さらに、デミニミス計算の具体的手順は、15CFRパート734補遺2にガイドラインとして定められており、まず各米国原産品目のECCNを確定し、当該米国原産品目を仕向地に輸出した場合に許可が必要となるかを確認して、分子に算入する「管理対象コンテンツ」を特定する作業が求められます。

実務で揉めるのは「十五%」の意味です(デミニミス計算の落とし穴)

米国部品価格が十五%だから直ちにアウト、又は直ちにセーフ、という短絡的思考は危険です。
補遺2の考え方では、分子に算入するのは、単なる米国部品ではなく、仕向地に対して許可が必要となる米国原産の管理対象コンテンツです。
したがいまして、社内の十五%という数字は、少なくとも次の確認を経て再計算する必要がございます。
第一に、米国センサー部品のECCNの確定です。
第二に、当該ECCNが仕向地イラン向けに許可を要するかという許可要否の確認です。
第三に、分子と分母をフェア・マーケット・バリューの考え方で算定し、根拠資料に紐付けて記録化することです。 
第四に、ソフトウェアが「バンドル」に該当する場合や、ソフトウェアが単独で再輸出される場合の取扱いは別に検討が必要である点です。
15CFR734.4の注記は、米国原産ソフトウェアが単独で再輸出される場合にはデミニミス除外の対象にならない旨を示していますので、ソフトウェアの有無は必ず切り分けてください。 

表2 EARデミニミス確認シート(顧問先配布用の実務版)。
確認項目 担当部門例 確認内容 根拠条文等 成果物
米国由来コンテンツの抽出 技術、購買、法務 米国原産部品、ソフト、技術の有無を全件棚卸しします。 15CFR734.4、パート734補遺2。 部品表、SBOM、技術ソース一覧。
ECCNの確定 輸出管理、法務 米国原産品目ごとにECCNを確定します。 補遺2はECCN確定を前提とします。 ベンダー回答、分類メモ。
仕向地イランの許可要否整理 輸出管理、法務 当該ECCNをイランへ輸出した場合に許可が必要か確認します。 補遺2はパート746等の参照を想定します。 許可要否表、参照資料控え。
FMVでの分子分母算定 経理、法務 分子分母の価値を合理的根拠で算定し、通貨換算を統一します。 補遺2のガイドライン。 計算表、根拠資料束。
閾値判定 法務、輸出管理 イラン向けは十%を前提に、超過の有無を判定します。 15CFR734.4(c)。 稟議メモ、結論と理由。

イラン向けの実務的帰結(許可が要るか以前に事業として詰まりやすい)

デミニミス計算の結果、完成品がEAR対象となる場合、次は「当該完成品をイラン向けに再輸出する許可が必要か」を検討する段階になります。
補遺2は、管理対象コンテンツの特定において、コマース・カントリー・チャートやパート746の参照を想定していますので、対イランは国別制裁の影響を強く受けることを前提に置く必要がございます。 
また、BISは、国外からの再輸出や国外での移転を含む場面での判断ガイダンスを示しており、社内としては「対象性の確定」と「許可要否の判断」を工程分けして運用することが有用です。 
事業者目線で重要なのは、仮に日本法上は輸出可能であっても、米国側で許可が必要と整理された時点で、取引の成立可能性が大きく下がり、代替市場や代替構成を含む経営判断になりやすい点です。

OFACは医療機器の一般許可がある一方で、別の地雷もあります(ブログ読者がつまずく二層構造)。 

事業者向けに強調すべき点は、OFACには医療機器向けの一般許可が用意されている一方で、そこに乗るためには要件確認が必要であり、また、一般許可に乗ったとしてもEAR側で止まることがある、という二層構造です。
31CFR560.530は、一定の要件のもとで医療機器の輸出又は再輸出と、それに付随する取引を一般許可として認める建付けを置いています。 
同条は、関連取引として、輸送手配、保険、支払、契約締結等を含み得ることを条文上明示しており、医療機器ビジネスで問題になりやすい「支払や契約行為」まで射程に入れている点が実務上重要です。 
一方で、ITSR全体としては、31CFR560.204の禁止、31CFR560.208のファシリテーション禁止、31CFR560.314の米国人定義など、取引への関与態様に関する規定も存在しますので、決済と業務分掌、グループ会社関与、保守体制を含めて整理する必要がございます。 
また、OFACは一般許可の適用範囲を拡張しつつも、一定の医療機器は個別許可を要する枠組みを設けている旨が説明されていますので、一般許可だから無条件に安心という理解は避けるべきです。 

表3 OFAC対イラン制裁チェック(医療機器取引の事業者向け)。
観点 確認内容 根拠条文等 実務上の対応
一般許可の対象か 対象が31CFR560.530の医療機器に該当し、除外に当たらないか確認します。 31CFR560.530。 該当性メモ、対象品目仕様、除外リストの確認記録を残します。
関連取引の範囲 契約、支払、保険、輸送手配等が関連取引として許容されるか整理します。 31CFR560.530。 取引スキーム図と実行手順を作成します。
米国人関与 米国人が承認、交渉、指揮、支払指示等に関与しないよう整理します。 31CFR560.208、560.314。 業務分掌、承認権限、会議体の設計を文書化します。
決済と金融機関 ドル決済、米国金融機関の介在、米国決済網の関与可能性を棚卸しします。 31CFRパート560の遵守観点。 銀行確認、通貨、経路、入金条件、代替案を記録化します。
保守、ソフト、遠隔サポート 運用、保守、修理に必要なソフトやサービスが一般許可の枠内か確認します。 31CFR560.530(ソフト、サービスを含む構造)。 提供内容を切り分け、要件充足を記録化します。

社内で回せる最短フロー(翌日から運用するための箱図)

[開始]イラン向け医療機器案件が立ち上がります。

[一次停止]出荷、確約、通関、保守準備、遠隔サポート準備、決済確定を停止いたします。

[EAR棚卸]米国由来部品、米国由来ソフト、米国由来技術の有無を全件抽出いたします。

[ECCN確定]米国原産品目のECCNを確定いたします。

[管理対象コンテンツ特定]補遺2に従い、分子に算入する品目を特定いたします。 

[デミニミス計算]FMVで分子分母を算定し、十%閾値で判定いたします。 

[分岐1]十%超の場合はEAR対象となる可能性が高いため、原則として輸出中止又は許可取得可能性の専門家精査へ移行いたします。

[並行]OFAC側で31CFR560.530一般許可の該当性と、米国人関与、決済、保守サービスの地雷を棚卸しいたします。 

[最終判断]日本法、EAR、OFACの全てで適法性と実行可能性が担保できる場合にのみ、輸出を再開いたします。

弁護士としての実務コメント(事業者が誤解しやすい点)

第一に、日本製品だから日本法だけでよいという発想は、米国由来コンテンツが混在する医療機器では通用しないことが多いです。
第二に、デミニミスは単なる部品価格比率ではなく、管理対象コンテンツの特定とFMV算定を含む手続であり、判断の根拠を記録化しておかないと後から説明できません。 
第三に、OFACには医療機器向け一般許可があり得る一方で、その要件確認が必要であり、さらにEAR側が別建てで止めることがあります。 
第四に、対イラン取引は決済とサービス提供がボトルネックになりやすく、契約ができても送金ができない、装置を納入できても保守ができない、という形で事業として成立しないリスクがございます。

まとめ

イラン向けの医療機器輸出では、日本の外為法上の整理に加えて、EARのデミニミス(15CFR734.4、パート734補遺2)と、OFACのITSR(特に31CFR560.530の一般許可枠、及び米国人関与規制)を同時に検討する必要がございます。
社内での実務対応としては、一次停止、ECCN確定、補遺2に基づく再計算、OFAC一般許可の該当性確認、決済と保守を含めたスキーム棚卸し、そして記録化をセットで進めることが重要です。

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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭 

(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。

 

この記事の監修者

代表弁護士 有森 文昭弁護士 (東京弁護士会所属)

ARIMORI FUMIAKI

東京大学法学部及び東京大学法科大学院卒。弁護士登録後(東京弁護士会所属)、都内法律事務所で執務。都内法律事務所での執務時に、税関対応・輸出入トラブルをはじめとした通関・貿易に関する問題、労働問題等を中心に100件以上の案件に携わる。その中で、通関・貿易に関する問題についてより広く網羅的な知識を取得し、より高品質なリーガルサービスを提供したいと考え、通関・貿易関係の国家資格である通関士の資格を取得。

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