海外子会社への技術データ提供と外為法対応 |通関士資格所有の輸出管理・税関事後調査に強い弁護士

海外子会社への技術データ提供と外為法対応

1 事案の概要

IT・ソフトウェア開発企業から、海外開発拠点との技術データ共有について相談を受けた事例です。

同社は、ベトナムとインドに開発子会社を持ち、日本本社と海外拠点の間で、ソースコード、設計資料、暗号関連技術、仕様書、開発ノウハウなどを日常的にやり取りしていました。また、日本人エンジニアが現地へ出張し、海外子会社のエンジニアに対して設計思想や実装方法を指導することもありました。

ところが、同社の担当者が参加したセミナーで、「海外子会社へのメール送信やクラウド共有も、外為法上の技術提供として許可が必要になる場合がある」と聞き、これまでの運用が法令違反に当たるのではないかと不安になり、相談に来られました。

項目 内容
依頼者 IT・ソフトウェア開発企業
従業員規模 200
海外拠点 ベトナム子会社、インド子会社
相談の契機 セミナーで技術提供規制を知ったこと
主な懸念 過去の無許可提供リスク、今後の開発スピード低下
対象となる情報 ソースコード、設計資料、暗号技術、仕様書、技術指導内容
目標 適法性を確保しつつ、海外開発体制を止めないこと

 2 海外子会社へのメール・クラウド共有も「技術提供」になり得る

外為法上の輸出管理は、物を海外へ送る場合だけの問題ではありません。一定の技術を外国で提供する取引、非居住者に提供する取引、電子データを外国へ送信する行為なども、規制対象となり得ます。

経済産業省の資料では、技術提供の例として、メール、電話、Web会議システム、クラウドサービス等が挙げられています。また、技術とは、貨物の設計・製造・使用に必要な特定の情報をいい、技術データまたは技術支援の形態により提供されるものとされています。

そのため、「同じグループ会社だから自由に送ってよい」「相手は子会社だから輸出ではない」「メールやクラウドなので物の輸出ではない」と考えるのは危険です。

特に、海外子会社にクラウド上の技術データへのアクセス権を付与する場合には、海外子会社への技術提供として外為法上の確認対象になります。クラウドサービスに関する解説でも、海外子会社にアクセス権を付与して技術等のやり取りを行う場合、海外子会社への技術提供となり、外為法25条の対象となるとされています。

 3 相談時点での主なリスク

同社では、開発現場のスピードを優先し、海外子会社との技術共有がエンジニア主導で行われていました。法務部門や輸出管理担当者による事前確認は限定的で、過去に送信したデータの範囲も一元管理されていませんでした。

リスク項目 具体的な問題
技術データの該非判定未実施 暗号関連技術、制御技術、セキュリティ関連資料がリスト規制に該当する可能性
クラウド共有の管理不足 海外子会社のアクセス権限が広く、誰が何を閲覧できるか不明確
技術指導の記録不足 日本人エンジニアによる現地指導内容が記録されていない
子会社向けという油断 グループ内取引であることを理由に許可要否確認が省略されていた
過去分の法令違反リスク 数年分のメール・共有サーバー履歴に無許可提供の可能性
今後の業務停滞リスク 都度個別許可を取得すると開発スケジュールに影響

 4 弁護士の対応1:現状のリスク診断

まず、過去の技術提供の実態を把握するため、メール送信履歴、共有サーバーのアクセスログ、クラウドストレージの権限設定、技術資料の分類、海外出張時の指導内容を確認しました。

調査では、次の観点からリスクを整理しました。

確認事項 確認内容
技術の内容 ソースコード、仕様書、暗号機能、設計資料、実装ノウハウ
提供先 ベトナム子会社、インド子会社、現地エンジニア
提供方法 メール、クラウド、Web会議、現地指導、チャット
該非判定 リスト規制技術に該当する可能性の有無
取引審査 用途、需要者、再提供可能性、第三国移転の有無
記録の有無 誰が、いつ、何を、誰に提供したか
社内承認 法務・輸出管理部門の関与の有無

安全保障貿易管理では、輸出や技術提供を行う前に、該非判定、取引審査、出荷・提供管理を行うことが基本です。経済産業省の資料でも、輸出管理の流れとして、該非判定、取引審査、出荷管理が示されています。

調査の結果、同社が扱う技術の多くは汎用的なソフトウェア開発情報でしたが、一部に暗号機能やセキュリティ関連の技術が含まれ、リスト規制該当性を慎重に検討すべきものがありました。

 5 弁護士の対応2:過去分の整理と自主申告

過去の技術提供については、リスクの高いデータを抽出し、提供先、提供時期、提供方法、技術内容を整理しました。そのうえで、法令違反のおそれがあるものについて、当局への相談・自主申告の要否を検討しました。

外為法等に違反した場合または違反のおそれがある場合には、速やかに報告し、再発防止措置を講じることが輸出管理内部規程上も重要な要素とされています。経済産業省の資料でも、輸出管理内部規程において、違反時の報告・再発防止、子会社等への指導、教育、文書管理などが主要項目として位置付けられています。

本件では、一部の技術提供について許可要否の検討が不十分だったことが確認されたため、過去分を整理したうえで自主的に事情を説明しました。その結果、悪質な隠蔽や故意の無許可提供ではなく、社内体制未整備による管理不足と評価され、再発防止策の実施を前提に、指導レベルで収束しました。

 6 弁護士の対応3:特別一般包括許可の取得支援

次に問題となったのは、今後の開発体制です。

海外子会社との技術データ共有のたびに個別許可申請が必要となれば、開発スピードが大きく落ちてしまいます。そこで、同社には、一定範囲の取引について個別申請を不要にできる包括許可制度の活用を提案しました。

包括許可制度は、リスト規制により経済産業大臣の許可が必要となる場合でも、一定の範囲の取引について一括して許可を行う制度です。包括許可が適用できる場合、有効期限内であれば個別の許可申請は不要となります。ただし、キャッチオール規制には適用できず、輸出管理内部規程の届出等、一定の要件を満たす必要があります。

同社の取引実態を踏まえ、特別一般包括許可の取得を目指すことにしました。特別一般包括許可は、非ホワイト国向けを含む一定の仕向地・品目の組み合わせについて、貨物・技術の機微度が比較的低いものを包括的に許可する制度とされています。

選択肢 メリット デメリット
個別許可 取引ごとに明確な許可を得られる 申請負担が大きく、開発スピードが落ちる
一般包括許可 一定範囲で個別申請不要 対象地域が限定される
特別一般包括許可 非ホワイト国向けを含め一定範囲で個別申請不要 ICP整備、検査、記帳管理等の体制整備が必要
特定子会社包括許可 子会社向け取引に適した選択肢になり得る 対象範囲・要件の確認が必要

 7 弁護士の対応4:輸出管理内部規程(ICP)の策定

特別一般包括許可を取得するためには、輸出管理内部規程(ICP)の整備が重要になります。

輸出管理内部規程とは、輸出や技術提供に関する一連の手続を定め、安全保障貿易管理関係法令を遵守し、違反を未然に防ぐための内部規程です。経済産業省への届出制度があり、規程の内容が適切であれば受理票が発行されます。また、CP受理票が発行されている者は、毎年7月に輸出者等概要・自己管理チェックリストを提出する必要があり、適切な管理が実施されていれば包括許可制度を活用できます。

本件では、同社の業務実態に合わせて、ソフトウェア開発企業向けのICPを一から整備しました。

ICP項目 整備内容
最高責任者 代表取締役を輸出管理の最高責任者として明確化
統括責任者 法務・コンプライアンス部門長を統括責任者に指定
該非確認責任者 技術部門と法務部門の共同確認体制を構築
該非判定手続 ソースコード、仕様書、暗号技術、技術資料ごとの判定フローを整備
取引審査 提供先、用途、需要者、再提供リスクを確認
技術提供管理 メール、クラウド、Web会議、出張指導を対象化
アクセス権限管理 海外子会社の閲覧権限をプロジェクト単位で制御
記帳・記録保存 提供日時、提供者、提供先、技術分類、許可根拠を記録
監査 1回の内部監査を実施
教育 エンジニア、PM、営業、管理部門向け研修を実施
子会社指導 ベトナム・インド子会社にも再提供禁止・管理義務を周知
違反時対応 違反または疑義発生時の報告・調査・再発防止手順を整備

特別一般包括許可の申請者には、輸出管理内部規程の整備、CP受理票・チェックリスト受理票の交付、実施状況調査、内部審査実績などが要件として求められます。

そのため、単に規程文書を作るだけではなく、実際に運用できる承認フロー、記録様式、チェックリスト、監査手順まで整備しました。

 8 弁護士の対応5:エンジニア向け研修と運用定着

包括許可は、取得すれば終わりではありません。許可条件に従った運用、記帳管理、用途・需要者確認、社内監査、教育が継続的に必要になります。

そこで、弁護士が講師となり、エンジニア、プロジェクトマネージャー、海外拠点担当者向けの社内研修を実施しました。

研修では、法律用語だけを説明するのではなく、日常業務で起こりやすい場面に落とし込みました。

業務場面 研修での説明
海外子会社へソースコードを送る 送信前に技術分類と提供先を確認する
クラウドに設計資料を置く 海外拠点のアクセス権限付与は技術提供になり得る
Web会議で実装方法を説明する 口頭説明でも技術支援として管理対象になり得る
チャットでコード断片を共有する メール以外のコミュニケーションも対象
現地出張で指導する 技術指導内容の記録を残す
OSSや汎用情報を共有する 対象外・非該当でも判断根拠を記録する

特に重視したのは、「開発を止めるための規制」ではなく、「安心して海外開発を続けるための手続」として理解してもらうことです。

 9 解決結果

同社は、ICPの整備、社内フローの構築、当局対応、必要書類の整備を経て、特別一般包括許可を取得しました。

その結果、対象範囲内の海外子会社への技術提供について、都度の個別許可申請を行わずに運用できるようになり、開発スピードを落とさずにコンプライアンスを確保する体制が整いました。

成果 内容
過去リスク対応 過去分を整理し、自主的な説明により指導レベルで収束
包括許可取得 特別一般包括許可を取得
開発効率 子会社への対象技術提供について都度申請負担を軽減
社内統制 ICP、承認フロー、記録管理、監査体制を整備
子会社管理 ベトナム・インド子会社にも輸出管理ルールを展開
対外信用 大手クライアントからの開発委託時に管理体制を説明可能に
現場定着 エンジニアが無理なく記録を残せるワークフローを構築

さらに、輸出管理体制を整備したことで、同社は大手クライアントからのセキュリティ・コンプライアンス審査にも対応しやすくなりました。結果として、海外開発体制を維持しながら、受託開発案件の拡大にもつながりました。

 10 弁護士のコメント

IT・ソフトウェア企業では、技術のやり取りが日常業務に溶け込んでいます。メール、チャット、クラウド、Gitリポジトリ、Web会議、画面共有、現地指導など、あらゆる場面で技術提供が発生し得ます。

特に海外子会社とのやり取りは、「グループ内だから大丈夫」と考えられがちですが、外為法上は、子会社であっても海外にいる非居住者に対する技術提供として許可要否を確認する必要があります。

もっとも、輸出管理は、必ずしもビジネスのブレーキではありません。包括許可制度を適切に活用し、ICPを整備すれば、適法性を確保しながら、海外開発のスピードを維持することができます。

重要なのは、エンジニアに過度な負担をかけることではなく、日常業務の中で自然にチェックと記録が残る仕組みを作ることです。法務・輸出管理部門が現場を止めるのではなく、現場が安心して開発を進められるようにすることが、実効的なコンプライアンス体制の目的です。

 

この記事の監修者

代表弁護士 有森 文昭弁護士 (東京弁護士会所属)

ARIMORI FUMIAKI

東京大学法学部及び東京大学法科大学院卒。弁護士登録後(東京弁護士会所属)、都内法律事務所で執務。都内法律事務所での執務時に、税関対応・輸出入トラブルをはじめとした通関・貿易に関する問題、労働問題等を中心に100件以上の案件に携わる。その中で、通関・貿易に関する問題についてより広く網羅的な知識を取得し、より高品質なリーガルサービスを提供したいと考え、通関・貿易関係の国家資格である通関士の資格を取得。

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