メーカー廃業により該非判定書を取得できない中古工作機械
輸出安全管理体制の構築目次
【相談の背景】
依頼者は、従業員約20名の中古機械輸出業者です。国内で使用されなくなった工作機械や産業機械を買い取り、海外の工場や商社に販売する事業を行っていました。
今回問題となったのは、約20年前に日本国内で製造された大型工作機械です。東南アジアの工場から引き合いがあり、依頼者は現物確認、価格交渉、輸送手配まで進めていました。買主側も、現地工場の生産ラインで使用する予定であり、早期の納品を希望していました。
ところが、輸出手続きの段階で大きな問題が発生しました。税関から、当該機械について「リスト規制に該当しないことを証明する資料を提出してほしい」と求められたのです。
工作機械は、性能によっては外為法上の輸出管理規制の対象となることがあります。特に、高精度の加工が可能な工作機械は、軍事転用のおそれがあるとして、輸出令別表第1の規制対象となり得ます。そのため、輸出者は、輸出しようとする機械が規制対象に該当するかどうか、いわゆる「該非判定」を行う必要があります。
通常であれば、製造メーカーに依頼して、該非判定書を発行してもらうのが一般的です。しかし、本件では製造から20年が経過しており、メーカーはすでに廃業していました。メーカーの営業窓口も技術窓口も存在せず、正規の該非判定書を入手することは不可能でした。
さらに、依頼者の手元には当時のカタログや仕様書も残っていませんでした。中古市場で流通していた機械であり、過去の所有者からも十分な技術資料を引き継いでいなかったためです。
依頼者は、「メーカーの証明書がなければ輸出できないのではないか」「税関に説明できなければ、契約自体をキャンセルせざるを得ないのではないか」と不安を抱え、当事務所に相談しました。
【本件の課題整理】
本件のポイントは、単に「古い機械である」ということではありませんでした。重要なのは、メーカー発行の該非判定書がない状況で、輸出者としてどのように合理的かつ客観的に非該当性を説明するかという点です。
中古機械の輸出では、次のような問題がしばしば生じます。
| 課題 | 内容 | 実務上のリスク |
| メーカーが廃業している | 正規の該非判定書を取得できない | 通関時に説明資料が不足する |
| カタログ・仕様書がない | 当時の性能値を確認できない | 規制値との比較が困難になる |
| 機械が古い | 現在の性能が製造時と異なる可能性がある | 劣化後の性能をどう扱うかが問題になる |
| 輸出先が海外工場 | 最終用途・需要者の確認が必要 | キャッチオール規制上の確認も必要になる |
| 税関から資料提出を求められている | 事後対応になると貨物が止まる可能性がある | 納期遅延・契約解除・保管費用が発生する |
本件では、メーカー判定書を取得できないこと自体は避けられませんでした。そこで、弁護士は、代替的にどのような資料を整えれば、輸出者自身の責任で行った判定として説明可能かを検討しました。
特に重要だったのは、工作機械の規制ポイントである「軸数」や「位置決め精度」などの技術的要素です。これらの性能が規制値に達しているかどうかを確認しなければ、非該当であるとの説明はできません。
【対応方針の全体像】
弁護士は、まず本件を「書類がない案件」ではなく、「客観的な性能調査により、代替資料を構築する案件」と位置付けました。
対応方針は、次の三段階に整理しました。
【対応の流れ】
① 実機・周辺資料の調査
↓
② 規制値との比較と該非判定書の作成
↓
③ 理由書を添えて税関へ事前説明
↓
④ 追加質問への対応
↓
⑤ 非該当として輸出通関
この流れを明確にしたうえで、依頼者、技術コンサルタント、弁護士の役割を分担しました。依頼者は機械の保管場所や過去の取引資料を提供し、技術コンサルタントは実機の性能確認を担当しました。弁護士は、外為法・輸出管理規制上の観点から、調査すべき項目、資料の構成、税関への説明方法を整理しました。
【製品スペックの独自調査】
該非判定書がない場合でも、輸出者自身が該非判定を行うことは可能です。ただし、その判定には根拠が必要です。メーカーの一言や、輸出者の経験則だけでは足りません。
そこで、弁護士は技術コンサルタントと連携し、当該工作機械の実機調査を実施しました。調査では、機械の銘板、型式、製造番号、制御装置、可動軸の構成、加工可能範囲、制御精度、実際の動作状態などを確認しました。
また、インターネット上に残っている中古機械販売情報、過去の類似機種のカタログ、業界関係者から得られる仕様情報も収集しました。製造当時の正式カタログは入手できませんでしたが、同一シリーズまたは近接型番の資料を複数照合することで、当該機械の標準的な仕様を推定しました。
特に重視したのは、次の項目です。
| 調査項目 | 確認内容 | 判定上の意味 |
| 軸数 | 同時制御可能な軸の数 | 規制対象性の判断要素になる |
| 位置決め精度 | 指令位置に対する実際の到達精度 | 高精度機械かどうかの判断に直結する |
| 制御装置 | NC装置・CNC装置の種類 | 同時制御性能や改造可能性の確認に必要 |
| 製造年 | 約20年前の製造であること | 当時の技術水準・経年劣化の説明に関係する |
| 改造履歴 | 高性能化改造の有無 | 現在の性能評価に影響する |
| 現状性能 | 実測値・動作確認結果 | 規制値との比較資料になる |
調査の結果、当該機械は大型であるものの、現状の性能は高性能工作機械として規制される水準には達していないことが確認されました。特に、位置決め精度については、経年使用による劣化もあり、規制値を満たさないことを客観的データで示せる状況でした。
ここで注意すべきなのは、「古いから安全」「中古だから規制対象外」とは言えないという点です。古い機械であっても、もともと高精度であり、現在も性能を維持していれば規制対象となる可能性があります。したがって、本件では、古さそのものではなく、実機調査に基づく性能値を根拠にする必要がありました。
【該非判定書の作成】
実機調査と資料収集の結果をもとに、弁護士は依頼者と協議しながら、輸出令別表第1の2項、すなわち工作機械に関する規制項目との比較表を作成しました。
該非判定書では、単に「非該当」と結論を書くのではなく、どの規制項目について、どの資料に基づき、どのように判断したのかを明確にしました。
イメージとしては、次のような構成です。
| 判定項目 | 本件機械の確認結果 | 規制値との比較 | 結論 |
| 機械の種類 | 大型工作機械 | 工作機械規制の対象となり得るため確認対象 | 判定対象 |
| 軸数 | 実機調査により確認 | 規制要件に照らして比較 | 規制値未満 |
| 位置決め精度 | 実測データにより確認 | 高性能機械の規制値と比較 | 規制値を満たさない |
| 制御装置 | 既存装置を確認 | 高度な同時制御性能の有無を確認 | 非該当方向 |
| 改造履歴 | 高性能化改造なし | 性能向上要因なし | 非該当方向 |
このような比較表を用いることで、税関担当者が判定の根拠を追いやすくなります。輸出管理の実務では、結論だけでなく、判断過程の透明性が重要です。どの法令項目を確認し、どの技術データと照らし合わせたのかが明確であれば、追加質問にも対応しやすくなります。
また、該非判定書には、機械の写真、銘板の写真、実測結果、類似機種資料、技術コンサルタントの確認メモを添付しました。これにより、机上の判断ではなく、実機に基づく判定であることを示しました。
【弁護士名義の理由書・意見書の作成】
本件では、該非判定書だけでは不十分でした。なぜなら、通常想定されるメーカー発行の判定書ではなく、輸出者側で作成した判定書だったからです。
そこで、弁護士は、該非判定書に加えて、弁護士名義の理由書、すなわち意見書を作成しました。
理由書では、主に次の点を説明しました。
| 説明事項 | 内容 |
| メーカー判定書がない理由 | 製造メーカーが廃業しており、正規の判定書取得が不可能であること |
| 代替調査の必要性 | 輸出者が責任をもって該非判定を行うため、実機調査を実施したこと |
| 調査方法の合理性 | 技術コンサルタントによる確認、類似機種資料の照合、実測データの取得を行ったこと |
| 判定の根拠 | 輸出令別表第1の2項に照らし、軸数・位置決め精度等を比較したこと |
| 非該当との結論 | 規制値を満たさないため、輸出許可を要しないと整理したこと |
弁護士名義の理由書を添付した目的は、判定の責任を曖昧にするためではありません。むしろ、メーカー判定書がない状況で、どのような調査を行い、どのような法的・技術的根拠に基づいて結論に至ったのかを明確にするためです。
税関にとっても、なぜメーカー判定書がないのか、なぜ輸出者作成の資料で足りると考えるのか、どの資料を見れば規制値との比較が分かるのかが整理されていれば、確認作業を進めやすくなります。
【税関への事前説明】
次に、弁護士は、通関時に貨物が止められるリスクを減らすため、正式な輸出申告の前に税関の相談窓口へ資料を持ち込み、事前説明を行いました。
事前説明では、資料を一括して提出するだけではなく、次の順序で説明しました。
① 輸出予定機械の概要
② メーカーが廃業しているため判定書を取得できない事情
③ 実機調査の方法
④ 軸数・位置決め精度などの確認結果
⑤ 輸出令別表第1の2項との比較
⑥ 非該当と判断した理由
⑦ 最終用途・需要者に関する確認状況
このように説明の順序を整えることで、税関側も「何が問題で、どの資料を確認すればよいのか」を把握しやすくなりました。
税関からは、追加でいくつかの質問がありました。具体的には、実測方法の前提、制御装置の仕様、改造履歴の有無、類似機種資料と本件機械との対応関係などです。
これに対して、弁護士は技術コンサルタントと連携し、追加説明資料を作成しました。回答では、断定できない点を無理に断定するのではなく、確認できた事実と推定に基づく部分を分けて説明しました。輸出管理の場面では、曖昧な点を過度に都合よく説明すると、かえって資料全体の信用性が下がるおそれがあります。そのため、実測値、写真、類似資料、依頼者のヒアリング結果を区別し、根拠を明確にしました。
【解決の結果】
最終的に、税関からは追加質問があったものの、提出した該非判定書、理由書、実機調査資料、類似機種資料の整合性が認められました。
その結果、当該大型工作機械は「非該当」、すなわち輸出許可不要として扱われ、無事に輸出通関が完了しました。
依頼者は、当初、メーカーが廃業していることから輸出を諦めかけていました。しかし、客観的なスペックを調査し、規制値との比較を丁寧に示すことで、ビジネスチャンスを逃さずに済みました。買主である東南アジアの工場にも予定どおり納品でき、契約キャンセルや損害賠償請求のリスクも回避できました。
【本件から得られる実務上のポイント】
中古機械の輸出では、メーカー発行の該非判定書がないことは珍しくありません。特に、古い工作機械、廃業メーカーの製品、海外向けに中古市場で流通している機械では、正式な仕様書やカタログが残っていないケースがあります。
しかし、メーカーの証明書がないからといって、直ちに輸出できないわけではありません。重要なのは、輸出者自身が責任をもって合理的な調査を行い、規制値との比較を説明できる資料を整えることです。
実務上は、次の対応が有効です。
| 実務対応 | 目的 |
| 実機の写真・銘板を保存する | 対象機械の同一性を示す |
| 軸数・制御装置・精度を確認する | 工作機械規制の判断要素を把握する |
| 類似機種資料を集める | 仕様推定の補助資料にする |
| 改造履歴を確認する | 性能向上の有無を説明する |
| 該非判定書を作成する | 規制値との比較を明確にする |
| 理由書を添付する | メーカー判定書がない事情と調査の合理性を説明する |
| 税関へ事前相談する | 通関時の差止めリスクを減らす |
特に、税関への説明では、結論だけを示すのではなく、調査方法、根拠資料、規制値との比較、最終用途の確認をセットで示すことが重要です。
【弁護士のコメント】
メーカーの該非判定書がない場合でも、それだけで輸出を断念する必要はありません。客観的なスペックを特定できれば、輸出者自身の責任において該非判定書を作成し、非該当であることを説明できる可能性があります。
もっとも、そのためには、外為法・輸出管理規制の理解に加え、機械の技術仕様をどのように規制値と対応させるかという専門的な検討が必要です。特に工作機械では、軸数、位置決め精度、制御装置、改造履歴など、判定に影響する要素を正確に整理しなければなりません。
中古品輸出では、「古いから大丈夫」「メーカーがないから仕方ない」といった感覚的な判断は危険です。必要なのは、税関や関係当局が確認できる形で、根拠資料を積み上げることです。
当事務所では、技術専門家と連携しながら、メーカー判定書が取得できない中古機械についても、該非判定書、理由書、税関説明資料の作成をサポートしています。中古機械の輸出で手続き上の壁に直面した場合には、早い段階でご相談ください。
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東京大学法学部及び東京大学法科大学院卒。弁護士登録後(東京弁護士会所属)、都内法律事務所で執務。都内法律事務所での執務時に、税関対応・輸出入トラブルをはじめとした通関・貿易に関する問題、労働問題等を中心に100件以上の案件に携わる。その中で、通関・貿易に関する問題についてより広く網羅的な知識を取得し、より高品質なリーガルサービスを提供したいと考え、通関・貿易関係の国家資格である通関士の資格を取得。