少額特例を使う際の実務上の注意点 |通関士資格所有の輸出管理・税関事後調査に強い弁護士

少額特例を使う際の実務上の注意点

前回は、半導体製造装置の交換部品を海外へ送る場合に、少額特例を理由として該非判定を省略することはできないこと、また「100万円以下なら常に許可不要」とは限らないことを解説しました。
本日は、少額特例を実際に検討する際に問題となる、金額計算、仕向地、キャッチオール規制、通関時の対応、社内フローについて解説します。 

1 少額特例は「契約単位」「項番の括弧ごと」の総価額で判断する

少額特例の金額判断では、1個あたりの価格や、1回の船積み金額だけを見ればよいわけではありません。
実務上は、次の点に注意が必要です。
①個々の貨物価格だけで判断しない
1回の船積み金額だけで判断しない
③契約単位で確認する
④輸出令別表第1の項番の括弧ごとに総価額を確認する
⑤分割出荷によって少額特例の範囲内に見せる運用は避ける

たとえば、1つの契約で複数の同種部品を輸出する場合、1個あたりの価格が少額であっても、該当項番の括弧ごとの合計額が基準を超えれば、少額特例を使えない可能性があります。
また、契約総額が基準を超えているにもかかわらず、数回に分けて船積みすることで、1回あたりの出荷額を基準内に収めるという考え方も適切ではありません。
少額特例は、形式的な出荷単位ではなく、契約関係や該当項番ごとの総価額を踏まえて判断する必要があります。 

2 仕向地によっては少額特例を使えない

少額特例の適用では、仕向地も重要です。
たとえば、少額特例が適用されない仕向地があります。直接の出荷先だけを見て判断するのではなく、最終需要者や最終用途も確認する必要があります。
特に、次のような取引では注意が必要です。

①海外商社を経由する取引
②海外子会社を経由する取引
③現地サービス会社宛てに出荷する取引
④最終顧客の工場に設置された装置向けの部品を送る取引
⑤第三国への再輸出や転売の可能性がある取引

インボイス上の荷受人が問題ないように見えても、最終的な需要者や用途に懸念があれば、輸出管理上の問題が生じ得ます。
そのため、少額特例の判断にあたっては、少なくとも次の事項を確認すべきです。
①直接の荷受人
②最終需要者
③最終仕向地
④使用場所
⑤使用目的
⑥再販売・再輸出・第三者移転の有無

「海外顧客」とだけ把握している状態では、少額特例を使えるかどうかを正確に判断することはできません。

3 キャッチオール規制には「少額だから免除」という発想は通用しない

該非判定の結果、リスト規制に非該当であった場合でも、輸出管理上の確認が終わるわけではありません。
リスト規制に該当しない場合には、キャッチオール規制の確認が必要になります。
キャッチオール規制とは、リスト規制品目以外であっても、用途や需要者に懸念がある場合に、経済産業大臣の許可が必要となる制度です。
たとえば、次のような事情がある場合には注意が必要です。

①用途が軍事用途に関係する可能性がある
②大量破壊兵器等の開発等に用いられるおそれがある
③需要者が兵器等の開発に関与している可能性がある
④外国ユーザーリスト掲載企業との関係がある
⑤経済産業大臣からインフォームを受けている
⑥最終用途や最終需要者が明確でない

少額特例は、リスト規制該当貨物について一定の条件のもとで許可を不要とする制度です。キャッチオール規制上の懸念を無視してよい制度ではありません。
したがって、リスト規制非該当であっても、用途・需要者確認を省略することはできません。 

4 「修理用部品」「保守用部品」でも油断できない

海外顧客からの依頼が、故障した装置の修理用や既存装置の保守用である場合、通常の販売取引よりもリスクが低いように感じられるかもしれません。
しかし、修理用・保守用であることだけを理由に、該非判定や用途・需要者確認を省略することはできません。
特に半導体製造装置の場合、部品を交換することで装置の性能維持、復旧、延命が可能になります。部品単体の金額が小さくても、最終用途上の意味が大きい場合があります。
社内実務では、少なくとも次の事項を確認すべきです。

①対象部品の型番・仕様・図面・材質
②対象部品が使用される装置の型番・仕様
③装置の設置場所
④顧客名、荷受人、最終需要者
⑤用途が通常の保守・修理に限られるか
⑥転売、再輸出、第三者移転の予定がないか
⑦顧客が外国ユーザーリスト等に関係しないか
⑧インフォームを受けていないか

「急ぎだから」「装置が止まっているから」という事情は、ビジネス上は重要です。しかし、輸出管理上の確認を省略する理由にはなりません。 

5 出荷前に取るべき実務対応

ご相談のようなケースでは、出荷前に次の対応を行うべきです。

(1)部品ごとに該非判定を行う

送付予定のパッキン、特殊ネジ、センサー類について、部品ごとに該非判定を行います。
確認すべき資料としては、次のようなものがあります。
①製品仕様書
②図面
③材質証明
④カタログ
⑤メーカーの該非判定書
⑥装置本体との関係資料
⑦顧客への過去出荷履歴
⑧社内の輸出管理判定履歴

メーカーや仕入先から該非判定書を取得できる場合には、それを確認します。
ただし、取得した判定書をそのまま鵜呑みにするのではなく、型番、仕様、判定日、適用法令、用途前提が今回の取引と合っているかを確認する必要があります。

(2)少額特例の適用可否を確認する

リスト規制に該当する場合には、該当項番・括弧を特定したうえで、少額特例が使えるか確認します。
特に、次の点が重要です。
①少額特例の対象となる項番か
②告示貨物に該当するか
③金額基準が5万円以下か100万円以下か
④契約単位で基準内か
⑤項番の括弧ごとの総価額で基準内か
⑥仕向地に問題がないか
⑦用途・需要者に懸念がないか

(3)必要に応じて許可申請を検討する

少額特例が使えない場合でも、直ちに輸出できないという意味ではありません。
その場合には、個別許可の申請や、条件を満たす場合には包括許可の利用を検討することになります。
ただし、許可申請には一定の時間がかかります。海外顧客から急ぎの依頼が来てから初めて該非判定を始めると、納期に間に合わない可能性があります。
そのため、頻繁に出荷する保守部品については、あらかじめ該非判定と輸出管理上の整理を行い、社内で判定結果を管理しておくことが望ましいといえます。 

6 通関時の対応と記録保存

少額特例を使う場合でも、「何となく許可不要」として出荷するのではなく、少額特例を適用した根拠を記録に残すべきです。
通関業者に対しても、少額特例を適用する旨を明確に伝える必要があります。
社内記録としては、少なくとも次の資料を保存しておくべきです。

①該非判定結果
②該当項番・括弧
③少額特例の適用可否判断
④金額算定根拠
⑤契約書・注文書・インボイス
⑥仕向地確認資料
⑦用途・需要者確認資料
⑧顧客からの用途確認書
⑨通関業者への指示記録
⑩出荷承認記録

輸出後に税関や当局から確認を受けた場合、単に「少額だと思った」と説明するだけでは不十分です。
どの資料に基づき、どのような法令判断を行ったのかを説明できる状態にしておく必要があります。 

7 社内で整備すべき輸出管理フロー

今回のような保守部品の緊急出荷は、輸出管理上のミスが起こりやすい場面です。
営業・保守・物流・法務・輸出管理部門の連携が不十分だと、現場判断で出荷が進んでしまうおそれがあります。
社内では、次のようなフローを整備しておくことが重要です。

①海外向け出荷依頼を受けた時点で輸出管理チェックを開始する
②部品型番ごとに該非判定データベースを確認する
③判定未了の部品は出荷保留とする
④仕向地・需要者・用途を確認する
⑤リスト規制該当品について、許可要否・特例適用可否を確認する
⑥少額特例を使う場合は、根拠資料を保存する
⑦通関業者に特例適用の有無を明確に伝える
⑧出荷後も記録を保存し、監査可能な状態にする

特に、半導体製造装置関連の企業では、装置本体だけでなく、交換部品、修理部品、技術資料、保守マニュアル、ソフトウェア、リモートメンテナンスに伴う技術提供も問題になり得ます。
貨物の輸出だけでなく、技術提供の管理も併せて確認する必要があります。

8 まとめ

少額特例は、輸出管理実務上、有用な制度です。条件を満たす場合には、リスト規制該当貨物であっても輸出許可を取得せずに輸出できるため、保守部品や少額取引の実務において重要な役割を果たします。
しかし、少額特例は、該非判定や用途・需要者確認を省略する制度ではありません。
ご相談のように、半導体製造装置の交換部品を海外へ送る場合、たとえ合計15万円程度であっても、次のような判断は避けるべきです。

①少額だから該非判定をしない
100万円以下だから許可不要と決めつける
③センサーやパッキンだから規制対象外と考える
④急ぎなので先に出荷し、後で確認する
⑤通関業者任せにして社内判断を残さない

正しい対応は、出荷前に該非判定を行い、少額特例の適用可否を項番・金額・仕向地・用途・需要者の観点から確認し、根拠資料を残したうえで輸出することです。
半導体関連の輸出管理は、国際情勢や規制強化の影響を受けやすく、実務上も慎重な対応が求められます。
「安いから大丈夫」という判断ではなく、少額の交換部品であっても社内ルールに沿った輸出管理手続を徹底することが、企業と担当者を守るために不可欠です。

この記事の監修者

代表弁護士 有森 文昭弁護士 (東京弁護士会所属)

ARIMORI FUMIAKI

東京大学法学部及び東京大学法科大学院卒。弁護士登録後(東京弁護士会所属)、都内法律事務所で執務。都内法律事務所での執務時に、税関対応・輸出入トラブルをはじめとした通関・貿易に関する問題、労働問題等を中心に100件以上の案件に携わる。その中で、通関・貿易に関する問題についてより広く網羅的な知識を取得し、より高品質なリーガルサービスを提供したいと考え、通関・貿易関係の国家資格である通関士の資格を取得。

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