海外工場とのWeb会議はご注意を
輸出安全管理体制の構築目次
仮の相談事例
電子部品メーカーの生産技術課長Aさんは、東南アジアの現地工場(海外子会社)から「製造装置のプログラムに不具合が出た。至急直してほしい」と連絡を受けました。
日本のベテラン技術者が、ZoomやTeams等のWeb会議をつなぎ、画面共有でソースコードを見ながら修正箇所の指示を出し、修正パッチデータも送って復旧させる予定です。Aさんは「同じグループ内だし、モノを輸出するわけでもない。オンラインの口頭指示やデータ送信まで輸出管理の対象になるのか」と不安になり、法務部に相談しました。
結論から言うと、内容次第で外為法上の「技術提供(役務取引)」として規制対象になり得ます。急場対応ほど「うっかり違反」が起きやすいため、現場が最低限おさえるべき判断手順と、今日からできる実務対策を整理します。
「モノを送らない」でも規制される。
技術提供は外為法のどこで決まるか。
輸出管理というと、完成品や部材を海外に送る「貨物の輸出(外為法第48条)」をまず思い浮かべます。しかし、技術はモノと同様に軍事転用され得るため、外為法は「技術の提供」も独立して規制しています。根拠条文が外為法第25条です。
外為法第25条第1項は、国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められる一定の技術(特定技術)を、外国で提供することを目的とする取引、又は特定国の非居住者に提供することを目的とする取引について、経済産業大臣の許可を要すると定めています。加えて、電子データの送信や記録媒体の持ち出しといった態様は、外為法第25条第3項が問題になり得ます。
そして、許可が必要となる「特定技術」が何かは、政令である外国為替令(外為令)第17条及び外為令別表により具体化されます。
さらに、どの仕様(スペック)が規制対象かは、貨物等省令、運用通達、役務通達等で細分化されます。つまり、現場が「モノを送っていない」ことだけを理由に安全と判断するのは危険であり、技術の中身と提供態様を見て判断する必要があります。
Web会議の画面共有、口頭指示、パッチ送信は「技術提供」に当たるのか
ご相談の場面で誤解が多い点は、「提供=ファイル送付」と狭く捉えてしまうことです。外為法上の技術提供は、相手方が利用できる状態に置くこと全般を含み得ます。設計図、仕様書、マニュアル、指示書、ソースコード等の「技術データ」だけでなく、指導、訓練、コンサル等の「技術支援」も含まれ得る点が重要です。
そのため、画面共有でソースコードやパラメータを見せながら修正の手順を説明する行為、会議中にチャットで具体的な設定値を送る行為、会議後にパッチデータを送る行為は、内容次第でいずれも「技術データの提供」又は「技術支援」に該当し得ます。判断のポイントは「会議をした事実」ではなく「会議で何を見せ、何を教え、何を送ったか」です。
| オンライン対応の行為 | 外為法上の位置付け(典型) | 留意すべき点 |
|---|---|---|
| 画面共有でソースコードやパラメータを表示し、変更手順を指示する | 技術支援、技術データの提供になり得る | 表示した範囲が「提供」に含まれる可能性がある。録画、チャットログ、会議メモも証拠になり得る。 |
| 修正パッチ(プログラム)を送信する | プログラム(技術データ)の提供になり得る | 送信手段(メール、クラウド、ファイル転送)を問わず、提供の実質で判断される。 |
| トラブルの一般論や安全教育(公開情報の範囲)を説明する | 規制対象外又は例外の可能性 | 公知性の判断は厳格。社内資料や顧客限定資料は通常「公知」にならない。 |
| 装置の安全機能を回避する設定、性能向上の調整ノウハウを指示する | 規制対象となる可能性が高い | 軍事転用可能性が問題になりやすい。該非判定と用途需要者確認を優先。 |
海外子会社でも「別法人」ーグループ内でも免除されない
許可が要るかは「技術の中身」で決まる
| プロジェクトを確認する | リスト規制(外為令別表) | キャッチオール規制(用途、需要者等) |
|---|---|---|
| 判断の入口 | 技術が外為令別表の各項に該当するか | リスト非該当でも懸念用途、懸念需要者に該当しないか |
| 典型的な資料 | 仕様書、ソースコード、制御仕様、アルゴリズム説明、変更点説明 | 需要者情報、最終用途、設置場所、再提供の有無、第三者同席の有無 |
| 現場の落とし穴 | 「修正だから軽微」と判断しがち | 「子会社だから安全」と決めつけがち |
| 結論の方向性 | 該当なら原則許可要。例外や包括許可の適用を検討 | 懸念があれば許可要となり得る。疑義があれば当局相談も検討 |
「公知の技術」や「基礎科学」は例外。ただし適用は限定的。
「急ぎの復旧」こそ危ないー無許可技術提供が起きる典型パターン
今すぐ取るべき対応ー会議前チェックと実施中ルール
| チェック項目 | 確認内容 | 証跡(残すもの) |
|---|---|---|
| 提供先の確定 | 参加者、同席者、途中参加、録画の有無、受領者 | 参加者一覧、招待メール、議事メモ |
| 技術の範囲確定 | 見せる範囲(画面、ファイル、関数)、送る物(パッチ、設定値、手順書) | 共有範囲メモ、送付物一覧、版数管理 |
| これは判断ではありません。 | 外為令別表該当性の一次判定。疑義は輸出管理へ。 | 該非判定書、根拠、判定日、判定者 |
| キャッチオール確認 | 用途、需要者、設置場所、再提供可能性、第三者関与 | 用途需要者確認票、入手した範囲のEUC等 |
| 許可、包括許可の適用確認 | 個別許可か包括許可か。社内承認ルートと台帳要否。 | 承認記録、台帳記帳、許可条件確認記録 |
| 情報セキュリティ | 暗号化、アクセス制限、送信経路、保存先、ログ取得 | 送信記録、アクセスログ、保管場所 |
会議中の実施ルールとしては、画面共有は最小範囲に限定し、ファイル一覧や履歴が見える画面は共有しないこと、会議中のファイル送付は原則禁止として例外時のみ承認を挟むこと、終了後に「何を提供したか」を棚卸しして台帳化することが有効です。
社内フロー例ー技術者が迷わない「止めどころ」を作る
| 手順 | 担当 | ポイント |
|---|---|---|
| 1.依頼受付と切り分け | 生産技術、保全 | 不具合内容と必要情報を整理し、まず共有範囲を決める。 |
| 2.相手先と参加者の確定 | 現地窓口、法務、輸出管理 | 子会社以外の第三者同席がないか確認し、記録する。 |
| 3.技術の該非判定 | 技術部、出力管理 | 外為令別表の該当性を確認し、根拠を残す。 |
| 4. 利用者による使用目的の確認。 | 営業、現地管理、輸出管理 | キャッチオール観点で用途、需要者、再提供可能性を確認。 |
| 5.許可、包括許可の適用判断 | アウトプットマネジメント、法務 | 個別許可か包括許可か、許可条件と台帳要否を確認。 |
| 6.実施(会議、送信) | 技術者 | 共有範囲を守り、送信物を限定し、ログと記録を残す。 |
| 7.事後記録とレビュー | 出力管理、テクノロジー | 提供内容を棚卸しし、次回の標準手順に反映する。 |
まとめーオンラインは便利だが「国境が消える」ほどリスクは増える
【お問合せは、こちらから】
・・・・・・・・・・・
執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。
この記事と関連するコラム
Warning: Trying to access array offset on false in /home/replegal/fefta-fa.com/public_html/wp-content/themes/export-duties/single-column.php on line 75
Warning: Attempt to read property "slug" on null in /home/replegal/fefta-fa.com/public_html/wp-content/themes/export-duties/single-column.php on line 75
外為法に基づく輸出管理を適切に行うためには、単発の判断や担当者の経験則に頼るのではなく、組織としての内部統制システムを整備することが不可欠です。 経済産業省も「輸出管理内部規程」の整備を推奨しており、企業規模を問わず実効性のある体制を持つことが求められています。 本日は、輸出管理における内部統制の要素と、企業が実務上整備すべき具体的なポイントをご紹介します。 内部統制の目的 まず、...
「技術」の提供規制:非居住者への情報提供、指示、指導の具体例
輸出安全管理体制の構築リスト規制の対象は「貨物」だけでなく、その設計、製造、使用に必要な「技術」も含まれます。現代の企業活動において、国境を越えたデータのやり取りや、国内にいる外国人従業員への技術指導は日常的です。 しかし、これらの行為が外為法上の「技術の提供」とみなされ、無許可で実施されると、深刻な法令違反となるリスクがあります。 そこで本日は、弁護士の視点から、規制対象となる「技術の提供」が具体的にどのような行...
外為法が規制しているのはモノだけではありません。設計図、仕様書、製造プログラム、あるいは技術的な指導といった「技術(プログラムを含む)」の提供も、規制の対象となります。これを「役務取引(技術提供)」の規制と呼びます。 「メールで図面を送っただけ」「海外出張で少しアドバイスをしただけ」――こうした日常的な行為が、実は無許可輸出(無許可技術提供)となり、処罰の対象になる可能性があります。今回は、...
【相談内容】 当社は、日本国内でアパレルブランドを展開している会社です。国内では10年以上にわたり同じブランド名で事業を行っており、日本での商標登録も済ませています。 このたび、中国および東南アジアへの進出を検討し、現地で商標調査を行ったところ、中国において、当社のブランド名と同一の商標が、当社とは全く関係のない現地企業によってすでに登録されていることが分かりました。しかも、文字だけで...
第三国を経由した技術提供はどう扱われる?「間接的輸出」と外為法の適用範囲
輸出安全管理体制の構築グローバル化が進む現在、企業や大学が技術を提供する相手は、日本国内にとどまらず、複数国にまたがる関係者・子会社・共同研究機関に広がっています。中でも注意が必要なのが、「第三国を経由した技術の提供」です。 本稿では、外為法において第三国経由の技術提供がどのように規制されるか、また、企業・研究機関が取るべき対応をご紹介します。 第三国経由の提供が規制対象となる背景 外為法では、「技術提供」や...

東京大学法学部及び東京大学法科大学院卒。弁護士登録後(東京弁護士会所属)、都内法律事務所で執務。都内法律事務所での執務時に、税関対応・輸出入トラブルをはじめとした通関・貿易に関する問題、労働問題等を中心に100件以上の案件に携わる。その中で、通関・貿易に関する問題についてより広く網羅的な知識を取得し、より高品質なリーガルサービスを提供したいと考え、通関・貿易関係の国家資格である通関士の資格を取得。