少額特例を理由に「該非判定なし」で輸出してよいのか
輸出安全管理体制の構築半導体製造装置の保守・メンテナンス業務では、海外顧客から「装置が止まっているので、至急、交換部品を送ってほしい」と依頼されることがあります。
送付する部品は、パッキン、特殊ネジ、センサー、バルブ、ポンプ部品、基板、ケーブルなど、見た目には小さく、金額も数万円から十数万円程度にとどまることが少なくありません。
そのため、社内で次のような会話が出ることがあります。
「少額特例があるから、100万円以下なら輸出許可はいらないのではないか」
「今回の金額は15万円程度だから、該非判定までしなくてもよいのではないか」
「急ぎの保守部品だから、そのまま出荷しても問題ないのではないか」
しかし、このような判断は輸出管理上、非常に危険です。
結論からいえば、少額特例を理由に、該非判定を省略することはできません。
少額特例を検討する場合でも、まず、輸出しようとする貨物がリスト規制に該当するのか、該当する場合には輸出貿易管理令別表第1のどの項番に該当するのかを確認する必要があります。
本記事では、前編として、少額特例の基本的な考え方と、なぜ該非判定を省略できないのかを解説します。
目次
1 「金額が安いから大丈夫」は輸出管理では通用しない
安全保障輸出管理において重要なのは、貨物の価格だけではありません。
問題となるのは、主に次のような点です。
①その部品がリスト規制に該当するか
②該当する場合、輸出令別表第1のどの項番に該当するか
③少額特例の対象となる項番か
④金額基準が100万円以下なのか、5万円以下なのか
⑤仕向地が少額特例を使える地域か
⑥用途や需要者に懸念がないか
⑦キャッチオール規制上、許可が必要となる事情がないか
つまり、15万円の部品であっても、リスト規制該当品であり、かつ少額特例の対象外であれば、輸出許可が必要になります。
また、少額特例の対象貨物であっても、金額基準が5万円以下とされている貨物であれば、15万円では特例を使えません。
輸出管理では、「少額かどうか」だけではなく、「何を、どこへ、誰に、何のために送るのか」を確認する必要があります。
2 少額特例とは何か
少額特例とは、一定の貨物について、価格が一定額以下である場合に、リスト規制に該当していても輸出許可を不要とする制度です。
本来、リスト規制に該当する貨物を輸出する場合には、経済産業大臣の輸出許可が必要です。もっとも、貨物の種類や金額、仕向地等によっては、例外的に許可が不要とされる場合があります。その一つが少額特例です。
ただし、少額特例は、すべての貨物に使える制度ではありません。
少額特例を使えるかどうかは、次のような条件によって決まります。
①輸出令別表第1のどの項番に該当するか
②告示貨物に該当するか
③価格が基準額以下か
④仕向地が対象地域か
⑤用途・需要者に懸念がないか
したがって、少額特例は「少額なら何でも許可不要」という制度ではなく、条件を満たす場合に限って使える例外制度と理解する必要があります。
3 少額特例を使うためにも、該非判定は必須
実務上、最も注意すべき点は、少額特例を検討するためにも該非判定が必要であるということです。
該非判定とは、輸出しようとする貨物や提供しようとする技術が、輸出貿易管理令別表第1や外国為替令別表などの規制リストに該当するかどうかを確認する作業です。
少額特例は、リスト規制に該当する貨物について、一定条件のもとで許可を不要とする制度です。そのため、まず、対象貨物がリスト規制に該当するのか、該当する場合にはどの項番・括弧に該当するのかを把握しなければなりません。
なぜなら、少額特例の適用可否や金額基準は、項番によって異なるからです。
たとえば、ある貨物について少額特例を使えるかどうかを判断するには、少なくとも次の順番で確認する必要があります。
①貨物の仕様・性能・材質・用途を確認する
②リスト規制に該当するかを判定する
③該当する場合、該当項番・括弧を特定する
④その項番が少額特例の対象か確認する
⑤金額基準を確認する
⑥仕向地や用途・需要者の懸念を確認する
⑦条件を満たす場合に限り、少額特例による輸出を検討する
この順番を飛ばして、「安いから少額特例」と判断することはできません。
4 半導体製造装置の部品は「小物」でも要注意
ご相談のように、対象がパッキン、特殊ネジ、センサー類である場合、現場では「単なる交換部品」「小物部品」と見られがちです。
しかし、半導体製造装置の分野では、部品単体では小さく見えても、輸出管理上の確認が必要となることがあります。
たとえば、次のような部品は注意が必要です。
①高性能なセンサー
②特殊材料を用いた部品
③高耐食性・高耐薬品性の部品
④真空環境で使用されるポンプ・バルブ関連部品
⑤フッ素系化学物質や腐食性ガスに対応する部品
⑥高精度な測定・制御に用いられる部品
⑦特定装置専用に設計された交換部品
一般的なネジや汎用品のパッキンであれば、リスト規制に該当しないケースもあります。しかし、特殊な材質、性能、用途を持つ部品であれば、リスト規制との関係を確認する必要があります。
輸出管理では、品名だけで判断することはできません。
「パッキンだから大丈夫」
「ネジだから関係ない」
「センサーは小さいから問題ない」
このような名称ベースの判断は危険です。
確認すべきなのは、品名ではなく、仕様、性能、材質、用途、該当パラメータとの関係です。
5 「100万円以下ならOK」とは限らない
少額特例について、実務で特に多い誤解が、**「100万円以下なら輸出許可不要」**というものです。
しかし、これは正確ではありません。
少額特例の金額基準は、貨物の区分によって異なります。大まかには、次のように整理できます。
| 貨物区分 | 少額特例の考え方 |
| 輸出令別表第1の1〜4の項 | 適用されない |
| 5〜13の項の貨物のうち、告示貨物以外 | 100万円以下 |
| 別表第3の3に掲げる貨物、いわゆる告示貨物 | 5万円以下 |
| 14の項 | 適用されない |
| 15の項 | 5万円以下 |
| 16の項、いわゆるキャッチオール | 適用されない |
このように、100万円以下という基準が使えるのは、少額特例の対象となる貨物のうち一部に限られます。
たとえば、送付予定のセンサーが、5〜13の項の告示貨物に該当する場合や、15の項に該当する場合には、5万円以下という基準が問題になります。その場合、15万円の出荷であれば、少額特例を使えない可能性があります。
したがって、「合計15万円だから大丈夫」とは判断できません。
6 まとめ
半導体製造装置の交換部品を海外へ送る場合、部品の金額が小さくても、輸出管理上の確認を省略することはできません。
特に重要なのは、次の3点です。
①少額特例は、該非判定を省略する制度ではない
②100万円以下なら常に許可不要、という制度ではない
③半導体製造装置の部品は、小物であっても規制確認が必要になり得る
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東京大学法学部及び東京大学法科大学院卒。弁護士登録後(東京弁護士会所属)、都内法律事務所で執務。都内法律事務所での執務時に、税関対応・輸出入トラブルをはじめとした通関・貿易に関する問題、労働問題等を中心に100件以上の案件に携わる。その中で、通関・貿易に関する問題についてより広く網羅的な知識を取得し、より高品質なリーガルサービスを提供したいと考え、通関・貿易関係の国家資格である通関士の資格を取得。