中国ECサイトで販売される模倣品への実務対応
知的財産権侵害事案の対応【相談内容】
当社は、生活雑貨メーカーの海外営業を担当しています。最近、海外の顧客から「御社の商品とよく似た製品が、かなり安い価格で販売されている」と連絡を受けました。確認したところ、AlibabaやTaobaoといった中国の大手ECサイト上で、当社のヒット商品に酷似したコピー品が大量に出品されていることが分かりました。
出品ページでは、当社の商品写真やカタログ画像が無断で使用されており、商品名やロゴも当社のものに似せています。価格は正規品より大幅に安く、海外顧客が誤って購入するおそれもあります。
当社は、日本国内では特許権や商標権を保有していますが、中国ではまだ商標や意匠の登録をしていません。現在、中国での出願準備を進めている段階です。このような場合でも、ECサイト側に削除申立てを行い、模倣品の販売ページを削除させることはできるのでしょうか。
【弁護士からの回答】
結論として、中国国内向けのECプラットフォームで模倣品を削除させるには、中国で有効な知的財産権を持っているかどうかが非常に重要です。日本で商標権や特許権を持っていても、その効力は原則として日本国内に限られます。そのため、中国で商標権、意匠権、特許権などをまだ取得していない場合、Taobaoや1688などの中国国内プラットフォームに対して、商標権侵害や特許権侵害を理由に即時削除を求めることは難しくなります。
Alibabaグループの知的財産権保護プラットフォームでは、商標権、著作権、特許権などの侵害についてオンラインで申立てができ、申立てが成立すれば、該当する商品リンクが削除されます。もっとも、同プラットフォームは、利用者に本人確認資料と知的財産権の権利証明資料を提出することを求めており、国内プラットフォームでは通常、中国で登録された知的財産権に基づく削除請求を受け付ける運用であると説明しています。
したがって、日本の登録証だけで中国国内サイトの出品を一括して削除させることは、実務上ハードルが高いと考えるべきです。ただし、商品写真やカタログ画像の無断転載については、著作権侵害を理由に申立てできる余地があります。まずは、どの権利を根拠に、どの出品を、どのプラットフォームで削除させるのかを整理する必要があります。
目次
1 プラットフォーム削除申立ての仕組み
Alibabaグループには、知的財産権保護プラットフォームがあり、Taobao、Tmall、1688、AliExpress、Alibaba.comなど、グループ内の複数のECプラットフォームを対象に、商標権侵害、著作権侵害、特許権侵害などの申立てを行うことができます。同プラットフォームでは、権利者がアカウント登録をし、本人確認資料と権利証明資料を提出したうえで、侵害商品リンクを指定して申立てを行い、申立てが成立すれば商品リンクが削除される仕組みです。
また、Alibabaのポリシーでは、知的財産権者またはその代理人が、知的財産権を侵害していると考える商品や商品説明について削除請求を提出できるとされており、対象には、商標侵害、著作権侵害、発明・外観設計等の特許侵害、商標を意図的に隠す行為などが含まれます。
申立てが認められた場合には、出品ページの削除やリンクの削除、出品者への処分が行われます。JETROの資料でも、Taobao・Alibabaの知的財産権侵害対応では、ユーザー登録、知的財産権登録、侵害申立て、反論、侵害URLの削除、対象者への処罰という流れが紹介されています。
2 中国での権利がない場合の限界
本件で最も大きな問題は、中国でまだ商標権や意匠権を取得していない点です。
Alibabaの知的財産権保護プラットフォームは、知的財産権の地域性に従い、通常、Taobaoのような国内プラットフォームでは中国登録知的財産権に基づく削除請求を受理し、Alibaba.comやAliExpressのような国際プラットフォームでは国際的に登録された知的財産権に基づく削除請求を受理する運用であると説明しています。
また、同プラットフォームのFAQでは、商標登録を申請中であり、商標登録出願受理通知書しかない場合について、商標登録手続の途中では商標専用権を有することを意味しないため、登録手続が完了して商標専用権を取得した後に知的財産権保護を申し立てるよう説明されています。外観設計、実用新案、発明の特許についても、申請中であるだけでは足りず、権利取得後に申し立てるよう案内されています。
したがって、中国での商標出願を準備中、または出願済みであっても未登録の段階では、商標権侵害を理由とする削除申立ては原則として難しいといえます。日本の商標登録証や特許証は、日本国内での権利を示すものにとどまり、中国国内サイトにおける商標権・特許権侵害の根拠としては十分でない場合が多いでしょう。
3 商品写真・カタログ画像の無断転載は別ルートで対応できる可能性がある
もっとも、中国で登録商標や意匠権がない場合でも、すべての対応が不可能になるわけではありません。本件では、商品写真やカタログ画像が無断転載されているとのことですので、著作権侵害を理由とした申立てを検討できます。
Alibabaのポリシーでは、著作権侵害の例として、第三者が著作権を有する写真を無断使用する行為や、無断複製品の販売が挙げられています。また、FAQでも、著作権に関する申立てでは、著作権登録証明や公開発表証明など、著作権を有することを示す資料の提出が求められるとされています。
そのため、当社が撮影した商品写真や制作したカタログ画像について、撮影データ、制作契約、初出日が分かる資料、自社サイト・カタログでの掲載履歴、著作権登録資料などを整えられる場合には、写真・画像の無断使用を理由に削除申立てを行える可能性があります。
ただし、この方法で削除できるのは、主に「当社の写真や画像を無断転載しているページ」です。模倣業者が自らコピー品を撮影し直した写真を使っている場合、写真の著作権侵害としては攻めにくくなります。また、商品形態そのものの模倣を止めるには、意匠権、特許権、不正競争法上の保護など、別の根拠が必要になります。
4 いま直ちに行うべき対応
まず、証拠保全を行ってください。模倣品ページは削除・変更されることがあるため、URL、出品者名、店舗名、商品名、価格、販売数量、商品写真、説明文、ロゴ表示、購入者レビュー、販売地域、問い合わせ記録などを保存します。スクリーンショットだけでなく、可能であれば公証取得やタイムスタンプの付与も検討します。
次に、被害の類型を分けます。ロゴの使用が問題なのか、商品名の使用が問題なのか、商品形態の模倣が問題なのか、写真・カタログの無断転載が問題なのかによって、使える権利と申立て理由が異なります。Alibabaの知的財産権保護プラットフォームでも、商標権、著作権、特許権など、申立ての権利類型を選択して手続を進める必要があります。
そのうえで、中国での緊急出願を行います。商標については、ブランド名、ロゴ、英字・漢字・カタカナ表記、主要商品区分、周辺区分を含めて出願を検討します。商品形態が特徴的であれば、中国での意匠出願や実用新案・発明特許の可能性も確認します。ただし、中国でも登録前の段階では原則として権利行使ができないため、将来の対策基盤を作るものと位置づける必要があります。
5 権利取得前に検討できる手段
中国での権利が未取得の場合でも、次の対応を検討できます。
第一に、著作権を根拠とする削除申立てです。商品写真、カタログ画像、説明文、デザイン画など、当社が著作権を主張できる素材が無断転載されている場合には、著作権侵害として申立てを行います。
第二に、警告書の送付です。出品者や店舗運営者を特定できる場合には、弁護士名義で警告書を送付し、販売停止、在庫廃棄、写真削除、販売数量の開示を求めることがあります。相手方が大規模な事業者でない場合、プラットフォーム上の紛争や将来の法的措置を嫌って、任意に削除することもあります。
第三に、中国の反不正当競争法上の主張です。商品名、包装、装潢、表示が中国市場で一定の影響を有しており、需要者に混同を生じさせる場合には、不正競争として争う余地があります。ただし、中国国内での知名度や販売実績、広告宣伝実績、混同のおそれを示す証拠が必要となり、ハードルは低くありません。
第四に、プラットフォームごとのルール違反申告です。知的財産権侵害としての申立てが難しい場合でも、詐欺的表示、虚偽表示、正規品を装った表示、禁止商品など、プラットフォーム規約違反に該当する可能性がないかを確認します。ただし、価格が安いことや、正規販売店ではないことだけでは、Alibabaのポリシー上、知的財産権侵害の問題とは扱われない場合があります。同ポリシーでも、販売価格がブランド側の定価より低いこと自体は知的財産権侵害の問題ではないと説明されています。
6 根本的な対策は「販売ページ」ではなく「供給源」を押さえること
ECサイト上の出品ページを削除できたとしても、同じ業者が別アカウントや別商品名で再出品することは珍しくありません。そのため、被害が大きい場合には、単なるページ削除ではなく、販売者や製造元を特定する調査が必要になります。
具体的には、サンプル購入、配送伝票の確認、出品者情報の調査、チャットでの聞き取り、複数店舗の関連性分析、工場所在地の特定などを行います。JETRO資料でも、侵害認定のための調査手段として、掲載製品写真や説明文による判定、サンプル購入、チャット調査、行政機関・司法機関の認定などが紹介されています。
製造工場や販売業者を特定できた場合には、中国で取得した商標権、意匠権、特許権等に基づき、行政摘発、民事訴訟、税関登録、プラットフォーム削除申立てを組み合わせて対応することが考えられます。特に、継続的・大量の模倣品販売がある場合には、個別URL削除だけでは効果が限定的であり、供給源への対応が重要です。
7 日本への流入は税関で止める
中国での権利が未取得であっても、日本国内では特許権や商標権を保有しているとのことですので、模倣品が日本に輸入されることを止める対応は検討できます。
具体的には、日本の税関に対して、商標権、特許権、意匠権等に基づく輸入差止申立てを行います。これにより、ECサイト経由で購入された模倣品や、転売目的で輸入されるコピー品が日本に入る段階で発見・差止めされる可能性があります。
海外での販売そのものを止める手段ではありませんが、日本市場への流入を抑えることは、国内の正規販売網やブランド価値を守るうえで重要です。中国側の権利取得・EC削除対応と並行して、日本税関での水際対策を進めるべきです。
8 まとめ
中国のECサイト上で模倣品が販売されている場合、Alibabaグループの知的財産権保護プラットフォームを通じて、商標権、著作権、特許権などに基づく削除申立てを行うことができます。申立てが成立すれば、侵害リンクの削除などの措置がとられます。
しかし、中国国内向けプラットフォームでは、通常、中国で有効な知的財産権に基づく申立てが必要になります。商標や特許が申請中であるだけでは権利行使の根拠として不十分であり、登録後に申し立てるよう案内されています。そのため、中国で商標権や意匠権をまだ取得していない場合、商標権侵害や意匠権侵害を理由に直ちに一括削除させることは難しいといえます。
一方で、商品写真やカタログ画像の無断転載については、著作権侵害を理由に削除申立てできる余地があります。まずは証拠を保全し、中国での緊急出願を進めるとともに、著作権侵害申立て、警告書送付、販売者・製造元調査、日本税関での輸入差止申立てを組み合わせて対応すべきです。模倣品対策は初動の速さが重要であり、販売ページの削除だけでなく、将来の権利行使を見据えた権利取得と証拠収集を同時に進めることが不可欠です。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭(詳細プロフィールは、こちら)
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。
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東京大学法学部及び東京大学法科大学院卒。弁護士登録後(東京弁護士会所属)、都内法律事務所で執務。都内法律事務所での執務時に、税関対応・輸出入トラブルをはじめとした通関・貿易に関する問題、労働問題等を中心に100件以上の案件に携わる。その中で、通関・貿易に関する問題についてより広く網羅的な知識を取得し、より高品質なリーガルサービスを提供したいと考え、通関・貿易関係の国家資格である通関士の資格を取得。