三国間貿易と外為法の規制
輸出安全管理体制の構築三国間貿易は、物流上は日本を通らないため、「日本の税関を通らない=日本の輸出管理は関係ない」と誤解されやすい取引類型です。
しかし、商流として日本企業が売買契約の当事者となり、外国相互間の貨物の移動を伴う取引に関与する場合、外為法上の仲介貿易取引規制が問題になります。経済産業省も、外国相互間の貨物の移動を伴う売買、貸借、贈与について、事前に経済産業大臣の許可が必要となる場合があることを明示しています。
したがいまして、物流が見えにくい三国間貿易ほど、最初に外為法の射程を正確に押さえたうえで、該非判定と銀行説明資料を準備し、業務を止めない運用を作ることが重要です。
目次
仮相談事例
専門商社の貿易事務担当Cさんは、中国の提携工場で製造した化学製品を、日本に輸入せず、中国から直接ベトナムの顧客へ輸送する三国間貿易を担当しています。
契約とお金の流れは「ベトナム→日本(当社)→中国」ですが、貨物は日本を通過しません。
日本の港、税関を通らないため外為法は関係ないと考えてよいのか、それとも日本の商社が当事者として契約に関与する以上、許可や手続が必要になるのかが分からず、銀行決済の段階で止まるのも避けたいと考えています。
結論(最低限ここだけ押さえてください)
モノが日本を通らなくても、日本の居住者である企業が、外国相互間の貨物の移動を伴う売買、貸借又は贈与に関する取引を行う場合、仲介貿易取引規制が適用され、許可が必要となる場合があります。
根拠は外為法第25条第4項及び外為令第17条第5項です。
許可が必要となるかは、単に三国間貿易であるかどうかではなく、(1)対象貨物が輸出令別表第1の何項に該当するか、(2)2の項から16の項に該当する場合には大量破壊兵器等の開発等のために用いられるおそれの有無等、で決まります。
したがいまして、「税関を通らないので外為法は関係ない」という理解は危険であり、少なくとも該非判定は必須で、銀行決済の観点でも説明資料が実務上不可欠になります。
誤解ポイント(現場がつまずくところ)
【誤解1 日本を通らないから日本の輸出管理は関係ない】
仲介貿易取引規制は、貨物の物理的移動が日本を経由するか否かではなく、日本企業が外国相互間の貨物移動を伴う取引に当事者として関与することを規制対象にします。
【誤解2 中国側で輸出許可を取っているから日本側は不要】
中国の規制への適合と、日本の外為法上の許可要否は別問題です。日本の許可が必要となる類型に当たる場合は、日本側の許可を欠くと外為法違反になり得ます。
【誤解3 化学製品は汎用品だから許可は不要】
化学分野は、用途、成分、濃度、純度、設備用途等によりリスト規制に該当し得ます。汎用品という印象だけで判断すると、該当を見落としやすい領域です。
仲介貿易取引規制の全体像(事業者向けに一枚で理解する整理)
1 何が規制されるのか
規制対象は、外国相互間の貨物の移動を伴う売買、貸借又は贈与に関する取引です。
2 いつ許可が必要になるのか
第一に、輸出令別表第1の1の項に該当する貨物の場合は、外国相互間の移動を伴う売買等を行うとき、全ての国、地域を対象として許可が必要です。
第二に、輸出令別表第1の2の項から16の項に該当する貨物であって、大量破壊兵器等の開発等のために用いられるおそれがある貨物について、外国相互間の移動を伴う売買等を行うときは許可が必要です。対象地域は輸出令別表第3の地域を除く等の整理が示されています。
3 最低限、何をしなければならないのか
結論として、リスト規制該当性を見極める該非判定は、通常の輸出と同じように必須です。仲介貿易では税関で止められない分、企業の自己判定と証跡がより重要になります。
本件への当てはめ(中国→ベトナムの化学製品)
ご相談の化学製品が輸出令別表第1の1の項に該当することは通常想定しにくいものの、化学分野では3の項、3の2の項等に関連する規制品目が存在し得るため、スペック、成分、用途等に基づく該非判定が不可欠です。
該当する場合には、モノが日本を通らなくても、契約当事者として日本企業が関与する以上、許可要否の検討が必要です。
キャッチオール規制はどう扱うべきか(混乱しやすい点)
三国間貿易では、通常の輸出と同じ発想で「リスト非該当でも用途、需要者で広く許可が必要ではないか」と不安になりがちです。
この点は、仲介貿易取引規制の要件が、輸出令別表第1の1の項は全面的に許可対象、2の項から16の項は「大量破壊兵器等の開発等のために用いられるおそれ」がある場合に許可対象という構造であることをまず押さえるのが有用です。
実務としては、リスト該当性の判定に加え、用途、需要者に関する基本的な確認を行い、疑義がある場合は早期に所管当局への相談や追加資料の整備に進む運用が現実的です。
銀行決済で止まる典型パターン(法令上OKでも実務で詰まるリスク)
三国間貿易は、銀行側の外為コンプライアンスで止まりやすい取引です。
典型的には、送金、被仕向送金、L/C、TT決済の段階で、銀行から、該非判定の根拠、契約書、インボイス、船積書類、最終仕向地、最終需要者、制裁対象該当性等の説明を求められます。
ここで該非判定書や項目別対比表等が提出できないと、銀行はリスクを取れず決済を止めることが実務上多いため、法務判断と同時に銀行説明資料の型を用意することが重要です。
今すぐ取るべき実務対応(社内の最短手順)
| 表1 三国間貿易(仲介貿易)を止めないための最短アクション | |||
|---|---|---|---|
| 優先度 | やること | 担当部門例 | ポイント |
| 最優先 | 対象貨物の該非判定を行います。 | 輸出管理、技術、品質 | 輸出令別表第1の該当項番を確定し、根拠資料を残します。 |
| 最優先 | 仲介貿易許可の要否を整理します。 | 輸出管理、法務 | 外為法第25条第4項、外為令第17条第5項の枠組みで判断します。 |
| 高 | 銀行に必要書類を事前確認します。 | 経理、財務、貿易事務 | 該非判定書、契約書、インボイス、船積書類の提出要否を先にすり合わせます。 |
| 高 | 取引スキームの見える化を行います。 | 貿易事務、営業 | 商流、物流、金流を一枚図にして説明可能にします。 |
| 中 | 用途、需要者の基本確認を行います。 | 営業、輸出管理 | 疑義がある場合は早期に相談ルートへ乗せます。 |
| 表2 仲介貿易の許可要否判断フロー(実務版) | ||
|---|---|---|
| ステップ | 質問 | 次のアクション |
| 1 | 日本企業が売買契約の当事者となり、外国相互間の貨物移動を伴う取引ですか。 | はいの場合、仲介貿易取引規制の検討に進みます。 |
| 2 | 貨物は輸出令別表第1の1の項に該当しますか。 | はいの場合、原則として許可が必要です。 |
| 3 | 貨物は輸出令別表第1の2の項から16の項に該当しますか。 | はいの場合、次に「大量破壊兵器等の開発等のために用いられるおそれ」の有無等を検討します。 |
| 4 | 用途、需要者等から懸念が整理されますか。 | 懸念がある場合、許可要否を含めて当局相談、資料整備を行います。 |
| 5 | 銀行決済で資料提出が求められますか。 | 該非判定書、商流物流金流図、契約書類を整備し、事前に銀行とすり合わせます。 |
三国間貿易は、物流が日本を通らない分、現場としては通常輸出よりも規制が緩いと感じやすい一方、実際には日本企業が契約当事者である限り、仲介貿易取引規制の射程に入るため、誤解したまま進めるとリスクが大きい取引類型です。
まずは該非判定で対象貨物の位置付けを確定し、許可要否の整理と銀行説明資料の型を作ることで、決済で止まることを防ぎ、かつ、無許可取引のリスクを低減できます。 免責。 本稿は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別案件の許可要否は貨物の仕様、相手方、用途等により変動し得ます。実務上は輸出管理部門又は専門家に個別確認のうえ運用設計をご検討ください。
なお、本稿は、一般的な情報提供を目的としたものであり、個別案件に対する法的助言ではありません。個別事情により結論が変わり得ますので、必要に応じて専門家又は所管当局への相談をご検討ください。
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執筆:有森FA法律事務所 代表弁護士有森文昭
(注)2026年3月時点の法令に基づき内容を改定
本記事は2026年3月現在の法令に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。個別の事案については、具体的な状況により判断が異なるため、必ず専門家にご相談ください。
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東京大学法学部及び東京大学法科大学院卒。弁護士登録後(東京弁護士会所属)、都内法律事務所で執務。都内法律事務所での執務時に、税関対応・輸出入トラブルをはじめとした通関・貿易に関する問題、労働問題等を中心に100件以上の案件に携わる。その中で、通関・貿易に関する問題についてより広く網羅的な知識を取得し、より高品質なリーガルサービスを提供したいと考え、通関・貿易関係の国家資格である通関士の資格を取得。