コンプライアンス体制 ― 実効性ある輸出管理の構築
輸出安全管理体制の構築外為法に基づく輸出管理を適切に行うためには、単発の判断や担当者の経験則に頼るのではなく、組織としての内部統制システムを整備することが不可欠です。
経済産業省も「輸出管理内部規程」の整備を推奨しており、企業規模を問わず実効性のある体制を持つことが求められています。
本日は、輸出管理における内部統制の要素と、企業が実務上整備すべき具体的なポイントをご紹介します。
内部統制の目的
まず、輸出管理における内部統制の目的は、大きく二つに整理できます。
①違反防止 ― 法令違反による刑事罰や行政制裁を未然に防ぐこと
②企業防衛 ― 信用失墜や取引停止などの経済的損失を避けること
この二つを実現するためには、単に規程を作るだけでは足りず、「現場で実際に機能する仕組み」を構築する必要があります。
内部統制の中核
一般的に、輸出管理の内部統制は次の四本柱から成り立ちます。
①取引審査フロー
輸出契約の前に、必ず法務・輸出管理部門が関与するチェック体制を整えること。営業担当者の独断で判断させないことが重要です。
②教育研修
営業部門や技術部門、海外子会社の担当者まで含め、輸出管理の知識を周知徹底します。違反事例の多くは教育不足に起因しています。
③記録保存
輸出審査の経緯やエンドユーザー確認書、用途誓約書などを一定期間保存し、後日の検証に備えること。記録がなければ「確認した」と主張しても認められません。
④監査・モニタリング
内部監査部門や第三者の専門家による定期的な点検を行い、実際に規程が遵守されているかをチェックします。
実務上の工夫
企業が内部統制を実効的に機能させるためには、いくつかの工夫が必要です。
①リスクベースの運用
全ての案件を同じ水準で審査すると非効率になり、現場からの反発を招きます。リスクの高い取引に重点を置くアプローチが有効です。
②社内通報制度の活用
現場担当者が「不審な取引」を匿名で報告できる仕組みを設けることで、違反の芽を早期に摘み取れます。
③経営層の関与
経営陣が輸出管理を「経営課題」として捉え、トップメッセージを発信することが、組織文化を根付かせる上で重要です。
海外子会社の統制
グローバル企業では、海外子会社が違反の温床となるケースが少なくありません。
日本本社が厳格な規程を持っていても、現地法人が独自判断で輸出を行い、結果的に本社が責任を問われることもあり得ます。したがって、内部統制はグループ全体で統一する必要があります。海外子会社の担当者にも教育研修を行い、審査フローを共通化することが肝要です。
まとめ
輸出管理の内部統制は、単なる形式遵守ではなく「実効性」が問われます。
取引審査・教育・記録保存・監査という中核を整備し、リスクのある部分を中心にシステムを構築し運用することで、違反リスクを最小化していくことが求められています。さらに、海外子会社も含めたグループ全体の統制を行うことで、初めて真に実効性のあるコンプライアンス体制が完成します。
輸出管理は「現場任せ」にせず、組織全体で担保する仕組みが不可欠です。
この記事と関連するコラム
Warning: Trying to access array offset on false in /home/replegal/fefta-fa.com/public_html/wp-content/themes/export-duties/single-column.php on line 75
Warning: Attempt to read property "slug" on null in /home/replegal/fefta-fa.com/public_html/wp-content/themes/export-duties/single-column.php on line 75
外為法の輸出管理というと「モノ(製品)」の輸出のみを思い浮かべる方が多いかもしれません。 しかし、実際には技術情報やデータの提供も規制対象に含まれます。 特に近年では、AI、半導体設計、量子技術などの分野で、技術データの取扱いが企業・大学双方にとって大きなリスクとなっています。 「技術の提供」とは何か 外為法において、「技術の提供」も輸出と同様に規制対象として扱われています。 これは、...
近年、外為法に基づく『輸出事後調査』が中小企業を含む事業者に対して実施されるケースが増加しています。税関(又は経済産業省)によって実施されるこの調査は、外為法等の諸法令に基づく許可を取得していたかどうか、また適切な輸出管理体制が取られていたか等を事後的に確認するものであり、企業にとっては対応を間違えると大きなリスクにつながりますので、注意が必要です。 そもそも輸出事後調査とは? 輸出事後調...
外為法に基づく輸出管理では、製品や技術が「リスト規制に該当するか」を明確に判断する必要があります。 その判断結果を文書として記録するものが『該非判定書』です。 該非判定書は、企業が自らの責任で法令遵守を行っていることを示す「証拠」であり、監査・行政調査・紛争時の法的防御において決定的な意味を持ちます。 該非判定書の役割 該非判定書は、単に「該当」または「非該当」を記すだけの書類ではありま...
リスト規制品の該非判定方法 ― リスト番号の読み方と判断手順
輸出安全管理体制の構築外為法のリスト規制の概要を理解しても、実務上の肝は「自社の製品・技術がリストに該当するかどうか」を判定することです。 この作業を「該非判定」と呼びます。 該非判定は、単なる技術照合ではなく、法的責任を伴う重要な企業判断です。ここでは、番号の読み方等の実務上の手順・注意点までを整理します。 「該非判定」とは何か 「該非判定」とは、製品・部品・技術などが輸出貿易管理令別表第1等に掲げる規...
外為法における「輸出許可制度」の全体像~リスト規制とキャッチオール規制の基本~
輸出安全管理体制の構築外為法に基づく輸出管理にとは、国家の安全を脅かすおそれのある貨物や技術が、無許可で海外に流出しないようにするための制度であり、日本企業・大学・研究機関を含むすべての「居住者」に適用されます。 本稿では、リスト規制とキャッチオール規制という2つの柱を中心に、輸出許可制度の構造の大枠をご説明いたします。 許可が必要な輸出とは? 輸出許可制度では、「経済産業大臣の許可」が必要となるケースが定め...

東京大学法学部及び東京大学法科大学院卒。弁護士登録後(東京弁護士会所属)、都内法律事務所で執務。都内法律事務所での執務時に、税関対応・輸出入トラブルをはじめとした通関・貿易に関する問題、労働問題等を中心に100件以上の案件に携わる。その中で、通関・貿易に関する問題についてより広く網羅的な知識を取得し、より高品質なリーガルサービスを提供したいと考え、通関・貿易関係の国家資格である通関士の資格を取得。