該非判定書の作成方法と保存義務 ― 形式に加えて『実質』も問われる
輸出安全管理体制の構築外為法に基づく輸出管理では、貨物や技術がリスト規制に「該当」または「非該当」かを判断するために行う「該非判定」が全ての出発点です。そして、その判断の記録として作成する必要があるのが「該非判定書」です。
該非判定書は、税関やからの照会や経済産業省による立入検査等の際に提出を求められることもあり、自社における輸出管理の信頼性を裏付ける重要資料です。
今回は、実務で使える該非判定書の作成方法と保存義務について、ご案内いたします。
目次
該非判定書とは
該非判定書とは、輸出しようとする貨物や技術が、リスト規制に該当するか否かを判断した結果とその根拠を記録した文書です。各企業や研究機関は、自らの責任でこの書類を作成し、一定期間保管する義務を負います。
該非判定書の主な記載事項
該非判定書のフォーマットは行政機関で公表されているものを使用することをお勧めいたしますが、基本的には以下の項目の確認、記載がベースとなります。
- ①製品名/技術名(型番等)
- ②用途・機能の説明
- ③仕様情報(出力、精度、構成、原材料等)
- ④判定結果(該当/非該当)と該当項番(ある場合)
- ⑤判定根拠(使用条文や照合理由)
- ⑥判定日、判定者の所属・氏名・連絡先
- ⑦必要に応じて添付資料(カタログ、仕様書等)
判定書作成時の注意点
(1)他社の判定結果、該否判定書の内容を鵜呑みにしない
たとえ同じ製品・型番であっても、製造ロットや用途が異なれば規制該当性が変わる可能性があります。
商社や取引先から提供された情報はあくまでも参考にとどめ、必ず自社で再確認しましょう。
(2)「非該当」であっても根拠を明記する
非該当と判断する場合も、「なぜ該当しないのか」を示す条文や仕様との対比を必ず記載します。単に「非該当」とだけ書かれた判定書では、監査時の説明責任を果たせませんので、必要な情報は事後的に確認した際も判別可能な程度に保存する必要があります。
(3)技術情報が不明確な場合は社内ヒアリングの徹底を
特に中小企業では、製品の詳細な仕様が設計担当者にしかわからないこともあります。判定書作成時には、技術部門と連携して情報を引き出す体制が不可欠です。
保存義務と保管期間
該非判定書は、該当・非該当を問わず、最低5年間(実務上は7年が推奨されています)の保存が必要です。
紙ベースでも電子データでも構いませんが、以下のような保管方法が望まれます。
- ①社内の輸出管理フォルダで製品別に管理
- ②製品マスタやERPと連携し、検索可能な状態で保存
- ③許可申請書類とセットでアーカイブ
まとめ:記録の正確性こそがリスク管理の要です
該非判定書は、形式的なチェックシートではなく、「将来の説明責任」、ひいては経済安全保障の実現を果たすための記録文書です。輸出管理においては、「やったこと」よりも「やったことを証明できるか」が問われる時代です。
弊事務所では、組織における安全保障輸出管理体制の構築サポートや、日常的な該非判定のサポート、外部監査の実施サポート等、幅広くサポートを行っておりますので、ご関心がありましたらお気軽にお問い合わせください。
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東京大学法学部及び東京大学法科大学院卒。弁護士登録後(東京弁護士会所属)、都内法律事務所で執務。都内法律事務所での執務時に、税関対応・輸出入トラブルをはじめとした通関・貿易に関する問題、労働問題等を中心に100件以上の案件に携わる。その中で、通関・貿易に関する問題についてより広く網羅的な知識を取得し、より高品質なリーガルサービスを提供したいと考え、通関・貿易関係の国家資格である通関士の資格を取得。