迂回調達リスクと輸出管理の実務対応 |通関士資格所有の輸出管理・税関事後調査に強い弁護士

迂回調達リスクと輸出管理の実務対応

安全保障輸出管理では、輸出先の国・地域によって確認すべき事項が異なります。

その中でも、国際的な輸出管理レジームに参加し、厳格な輸出管理を実施している国々は、一般にグループA国として扱われます。

そのため、実務上、「グループA国向けの取引であれば、輸出管理上の懸念は小さい」「キャッチオール規制の確認は不要ではないか」と考えてしまうことがあります。

しかし、グループA国向けであれば、すべての取引について安心できるわけではありません。

近年は、規制の厳しい国・地域や懸念のある最終需要者への迂回調達に、第三国の商社、販売代理店、物流拠点、関連会社などが利用されるリスクが重視されています。

この記事では、グループA国向け取引でも注意すべき迂回調達リスク、確認すべき実務上のポイント、契約上の対応、社内体制の整備について解説します。

グループA国とは

グループA国とは、国際的な輸出管理レジームに参加し、厳格な輸出管理を実施している国・地域をいいます。

実務上、キャッチオール規制の確認において、グループA国向け取引は、グループA国以外の国・地域向け取引と比べて異なる取扱いを受ける場面があります。

もっとも、グループA国向けであることは、取引の安全性を全面的に保証するものではありません。

重要なのは、「どの国に輸出するか」だけでなく、「誰が、どこで、何に使うのか」まで確認することです。

なぜグループA国向けでも注意が必要なのか

グループA国は、輸出管理を厳格に実施している国々です。
しかし、実際の取引では、契約上の買主や一次的な配送先がグループA国に所在していても、最終的な使用地や需要者が別の国・地域に存在することがあります。

たとえば、次のようなケースです。

  • グループA国の商社が購入し、第三国へ再輸出する
  • グループA国の物流倉庫を経由して、別の国へ転送される
  • グループA国の関連会社が購入し、懸念国のグループ会社で使用する
  • 契約上の買主はグループA国企業だが、最終需要者が明らかでない
  • 支払者、荷受人、最終使用者がそれぞれ異なる

このような場合、表面上はグループA国向け取引に見えても、実質的には第三国向け取引や迂回調達の可能性があります。

そのため、仕向地の国名だけで形式的に判断するのではなく、商流・物流・資金の流れを含めて、取引全体を確認する必要があります。

典型的な迂回調達の例

迂回調達が疑われる典型例として、次のような取引が考えられます。

  1. 設立直後の商社による大量注文

グループA国に所在する設立直後の商社が、通常の事業規模に比べて大量の高性能部品や機器を注文してくるケースです。

この場合、次のような事情が重なると注意が必要です。

  • 取引先の事業実態が不明確
  • 公式ウェブサイトに十分な事業情報がない
  • 最終需要者を明らかにしない
  • 使用場所や設置場所の説明が曖昧
  • 注文数量が用途に比べて過大
  • 納品後の再販売先を説明しない

このような場合、グループA国の商社が実際の使用者ではなく、第三国への再輸出や転売を目的としている可能性があります。

  1. 買主・支払者・荷受人・最終使用者が異なる取引

契約上の買主、代金の支払者、貨物の荷受人、最終使用者がそれぞれ異なる取引にも注意が必要です。

もちろん、商社取引や代理店取引では、関係者が複数存在すること自体は珍しくありません。
しかし、各当事者の役割や関係性が説明できない場合、または取引先が説明を避ける場合には、追加確認が必要です。

確認すべき事項としては、次のようなものがあります。

  • なぜ支払者と荷受人が異なるのか
  • 荷受人は実際に貨物を使用するのか
  • 最終使用者は誰か
  • 代理店・仲介業者はどのような役割か
  • 再輸出や転売の予定はあるか
  • 使用地はどこか

取引関係者が複数に分かれる場合には、商流図や物流図を作成し、誰が何を行うのかを整理することが有効です。

  1. グループA国の物流拠点を経由する取引

グループA国の倉庫、物流センター、フリーゾーンなどを経由する取引も、注意が必要な場合があります。

表面上の配送先はグループA国であっても、実際には短期間保管された後、別の国・地域に転送されることがあります。

このような場合には、次の点を確認する必要があります。

  • 最終仕向地はどこか
  • グループA国で実際に使用されるのか
  • 単なる経由地・積替地ではないか
  • 再輸出先や転送先はどこか
  • 再輸出時の法令遵守体制はあるか

単にインボイス上の仕向地がグループA国であるという理由だけで、取引全体の確認を省略することは適切ではありません。

迂回調達リスクを確認するためのチェックポイント

グループA国向け取引であっても、次のような事項を確認することが望ましいです。

確認項目 確認すべき内容
取引先の設立時期 設立直後の会社ではないか、事業実態があるか
事業内容 注文品と取引先の事業内容が整合しているか
過去の取引実績 継続的な実績があるか、急に大量注文が発生していないか
最終需要者 実際に使用する者が誰か明らかになっているか
最終用途 どの施設・工程・目的で使用されるか
最終仕向地 グループA国で使用されるのか、第三国へ移転されるのか
再輸出・転売 再輸出、転売、第三国移転の予定があるか
輸送経路 不自然な経由地や積替地がないか
支払者・荷受人 買主、支払者、荷受人、使用者の関係が説明できるか
エンドユーザー証明 最終需要者や用途に関する証明書を取得できるか

これらの確認を行うことで、表面的な仕向地だけでは見えにくいリスクを把握しやすくなります。

注意すべき兆候

次のような事情がある場合には、迂回調達の可能性を念頭に置き、追加確認を行うことが重要です。

  • 最終需要者を明らかにしない
  • 使用場所や設置場所の説明が曖昧
  • 再輸出の有無について明確に回答しない
  • 取引先のウェブサイトに実態が乏しい
  • 事業内容と注文品が一致しない
  • 設立直後の会社が高性能品を大量に注文する
  • 通常の取引規模を大きく超える数量を注文する
  • 支払者、荷受人、使用者が不自然に分かれている
  • 第三国の企業が取引交渉を主導している
  • 不自然な輸送経路や短納期を求める
  • 用途説明が「一般産業用」「研究用」など抽象的である

このような兆候がある場合、営業担当者が自己判断で取引を進めるのではなく、輸出管理部門や法務部門に報告し、必要に応じて出荷を保留する体制が重要です。

契約上の対応

迂回調達リスクに備えるためには、取引前の確認だけでなく、契約上の手当ても重要です。

たとえば、契約書、注文書、取引基本契約、販売代理店契約などに、次のような条項を定めることが考えられます。

  • 輸出管理法令を遵守する義務
  • 再輸出・転売・第三国移転を行う場合の事前通知または事前承諾
  • 最終用途・最終需要者を変更しない義務
  • 用途・需要者・仕向地に関する情報提供義務
  • エンドユーザー証明書の提出義務
  • 虚偽説明や情報不提供がある場合の出荷停止権
  • 輸出許可が得られない場合の履行免責
  • 法令違反や懸念情報判明時の契約解除権
  • 再輸出先に対する同等義務の遵守確保

特に、代理店や商社を通じた販売では、相手方がさらに第三者へ販売する可能性があります。
そのため、再販売先にも輸出管理上の義務を伝達させる条項を設けることが有効です。

契約条項例

以下は、一般的な参考例です。実際の取引内容や相手方、製品、仕向地に応じて調整が必要です。

買主は、本製品の購入、使用、再販売、輸出、再輸出、移転その他の取扱いに関し、適用される輸出管理法令及び経済制裁関連法令を遵守するものとする。買主は、売主の事前の書面による承諾なく、本製品を第三者に再販売し、又は第三国に輸出、再輸出若しくは移転してはならない。

買主は、本製品の最終用途、最終需要者、使用地、再輸出又は転売の有無その他売主が輸出管理上必要と判断する情報を、売主の求めに応じて速やかに提供するものとする。

買主が前項の情報提供を拒否した場合、又は提供された情報に虚偽、不正確若しくは不十分な内容が含まれると売主が合理的に判断した場合、売主は、本製品の出荷を停止し、又は本契約の全部若しくは一部を解除することができる。

社内体制として重要なこと

迂回調達リスクへの対応では、営業部門が最初の異変に気づくことが多くあります。

たとえば、取引先の説明が曖昧である、通常と異なる配送先を指定してくる、急に大量注文が入る、第三国の関係者が交渉に入ってくるといった事情は、営業担当者が把握しやすい情報です。

そのため、社内では次のような体制を整えることが重要です。

  • 営業担当者向けに迂回調達の典型例を共有する
  • 不審な取引を輸出管理部門へ報告するルールを設ける
  • 用途確認書・需要者確認書の取得基準を明確にする
  • 再輸出・転売がある取引は追加審査の対象とする
  • グループA国向けでも、商流が不自然な場合は審査を省略しない
  • 出荷停止や取引保留の判断権限を明確にする
  • 確認結果と社内承認記録を保存する

「国名だけで判断する輸出管理」から、商流全体を確認する取引審査へ移行することが、迂回調達リスクへの実効的な対応につながります。

グループA国向け取引でもインフォーム要件に注意

グループA国向け取引であっても、懸念国等への迂回調達が疑われる場合には、経済産業省から許可申請をすべき旨の通知、いわゆるインフォームが問題となる可能性があります。

インフォームを受けた場合には、リスト規制に非該当であっても、許可申請が必要となることがあります。

そのため、グループA国向けだからといって取引審査を形式的に済ませるのではなく、不自然な商流や用途・需要者情報の不足がある場合には、慎重に対応する必要があります。

東京・全国の迂回調達、輸出管理、キャッチオール規制のご相談は有森FA法律事務所へ

グループA国向け取引であっても、第三国への再輸出や懸念国等への迂回調達が疑われる場合には、慎重な確認が必要です。

特に、商社・代理店経由の取引、物流拠点を経由する取引、最終需要者が不明な取引、契約上の買主と荷受人・使用者が異なる取引では、取引全体のリスクを確認することが重要です。

有森FA法律事務所では、東京都港区赤坂を拠点に、全国の法人・個人事業主の皆様から、輸出管理、キャッチオール規制、迂回調達リスク、再輸出規制、用途確認、需要者確認、税関対応、輸出事後調査に関するご相談をお受けしています。

輸出先がグループA国であっても、商流や物流に不安がある場合、再輸出や転売の可能性がある場合、取引審査フローを見直したい場合には、お早めにご相談ください。

まとめ

グループA国向け取引であっても、すべての輸出管理上の懸念がなくなるわけではありません。

近年は、規制の厳しい国・地域や懸念のある需要者への迂回調達に、第三国の商社、代理店、物流拠点が利用されるリスクが重視されています。

そのため、輸出者は、国名だけで形式的に判断するのではなく、取引先の事業実態、最終需要者、最終用途、最終仕向地、再輸出の有無、輸送経路、支払者・荷受人・使用者の関係などを確認する必要があります。

また、契約上も、再輸出・転売時の法令遵守、最終用途の変更禁止、情報提供義務、違反時の出荷停止・契約解除などを定めておくことが有効です。

重要なのは、「グループA国向けだから安心」と考えるのではなく、商流全体を確認する取引審査を行うことです。営業部門が不自然な商流を早期に発見し、輸出管理部門や法務部門へ報告できる体制を整えることが、迂回調達リスクへの実効的な対応につながります。

この記事の監修者

代表弁護士 有森 文昭弁護士 (東京弁護士会所属)

ARIMORI FUMIAKI

東京大学法学部及び東京大学法科大学院卒。弁護士登録後(東京弁護士会所属)、都内法律事務所で執務。都内法律事務所での執務時に、税関対応・輸出入トラブルをはじめとした通関・貿易に関する問題、労働問題等を中心に100件以上の案件に携わる。その中で、通関・貿易に関する問題についてより広く網羅的な知識を取得し、より高品質なリーガルサービスを提供したいと考え、通関・貿易関係の国家資格である通関士の資格を取得。

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