リスト規制非該当でも安心できない「キャッチオール規制」の罠
輸出安全管理体制の構築前回解説した「リスト規制(1項〜15項)」の判定を行った結果、自社製品がリスト規制に該当しない(非該当)と判断されたとしましょう。では、これで自由に輸出ができるのでしょうか? 答えは「No」です。ここで登場するのが、「キャッチオール規制(補完的輸出規制)」です。
キャッチオール規制とは、リスト規制に該当しない品目(16項品目:食料品や木材などを除くほぼ全ての貨物・技術)であっても、その用途や需要者(ユーザー)に懸念がある場合には、経済産業大臣の許可が必要となる制度です。「すべて(All)を網(Catch)にかける」という名の通り、原則としてあらゆる製品が対象となり得るため、企業の輸出管理実務においては非常に厄介かつ重要な規制となります。
1 許可申請が必要になる「3つの要件」
キャッチオール規制において、許可申請が必要となるのは以下の要件に当てはまる場合です。
(1) 用途要件(客観要件) 輸出する貨物が、大量破壊兵器(核兵器、化学・生物兵器、ミサイルなど)の開発等に用いられるおそれがある場合、または通常兵器の開発等に用いられるおそれがある場合です。例えば、輸出したポンプが化学兵器の製造設備に使われる、あるいは輸出したトラックが軍用車両に改造される、といったケースが想定されます。
(2) 需要者要件(客観要件) 輸出先のユーザーが、大量破壊兵器等の開発等を行っている、または行ったことがあると認められる場合です。経済産業省が公表している「外国ユーザーリスト」に掲載されている企業・組織との取引は、特に注意が必要です。
(3) インフォーム要件 経済産業省から「この輸出は許可申請が必要である」と個別に通知(インフォーム)を受けた場合です。この通知が来たら、直ちに輸出を止め、許可申請を行わなければなりません。
2 輸出先国による扱いの違い(グループAなど)
キャッチオール規制の適用は、輸出先の国によって異なります。 輸出管理体制が整備されていると認められる26カ国(いわゆる「グループA」、旧ホワイト国。アメリカ、イギリス、ドイツなど)向けの輸出については、原則としてキャッチオール規制の対象外となります。
一方、グループA以外の国(中国、ロシア、東南アジア諸国、中東諸国など)への輸出については、大量破壊兵器キャッチオール規制が適用されます。さらに、国連武器禁輸国等に対しては、通常兵器キャッチオール規制も適用されるなど、仕向地によって確認すべき項目が変わります。近年、国際情勢の緊張により、特定の国に対する規制はより複雑化・厳格化しています。
「汎用品だから大丈夫」「長年の付き合いがある顧客だから大丈夫」という思い込みは禁物です。キャッチオール規制は、製品のスペックではなく、取引の背景にあるリスクを見る制度です。
企業としては、取引審査票(チェックシート)を用いた組織的な確認フローを確立することが必須です。当事務所では、どのような観点で顧客審査を行うべきか、契約書にどのような表明保証条項を入れるべきかなど、キャッチオール規制に対応した具体的な実務アドバイスを提供しています。少しでも懸念を感じる取引がある場合は、出荷前にご相談ください。
この記事と関連するコラム
Warning: Trying to access array offset on false in /home/replegal/fefta-fa.com/public_html/wp-content/themes/export-duties/single-column.php on line 75
Warning: Attempt to read property "slug" on null in /home/replegal/fefta-fa.com/public_html/wp-content/themes/export-duties/single-column.php on line 75
近年、クラウドストレージやオンライン共有ツールを使ったデータのやり取りが、企業や大学の現場で日常的に行われています。しかし、このようなデジタル情報の取り扱いにも、外為法に基づく輸出管理が適用されるケースが相当程度存在することをご存知でしょうか。 今回は、クラウド経由での技術・情報共有が「技術の提供」として規制対象になるのかどうかについて、ご説明いたします。 データを「国外に保存・アクセス」...
「なぜ輸出管理がこれほど重要視されているのか?」、これは様々な中小企業や大学・研究機関の担当者の方から寄せられる素朴な疑問です。 そこで本日は、日本の安全保障輸出管理制度がなぜ必要であり、また、どのような国際的文脈の中で運用されているのかを、歴史的な背景も踏まえて解説いたします。 1 冷戦時代に端を発する「輸出管理」の国際的起源 第二次世界大戦後、東西冷戦の時代、西側諸国は共産圏への軍事...
化学物質や化学製品は、その用途によっては大量破壊兵器や化学兵器の開発に利用されるおそれがあるため、外為法による輸出規制の重要分野の一つとされています。 中小の化学メーカーや大学・研究機関が開発・取り扱う製品にも、規制対象となるものが多く含まれており、正確な該非判定の実施が不可欠です。 外為法における化学物質の規制枠組み リスト規制で対象となる大量破壊兵器の原材料や化学兵器の前駆体となる物...
大学・研究機関における輸出管理の留意点 ― 学問の自由と安全保障の両立
輸出事後調査対応輸出管理は企業だけの問題ではありません。 大学や研究機関においても、最先端の研究開発や外国人研究者との共同研究の場面では、常に「外為法」が適用される可能性を留意する必要があります。 特に無形の技術提供が輸出とみなされる点は、研究者にとって直感的に理解しにくいことも多く、違反リスクを高めてしまう一つの要因となっています。 本日は、大学・研究機関における輸出管理の特徴と、学問の自由を...
外為法に基づく輸出管理を適切に行うためには、単発の判断や担当者の経験則に頼るのではなく、組織としての内部統制システムを整備することが不可欠です。 経済産業省も「輸出管理内部規程」の整備を推奨しており、企業規模を問わず実効性のある体制を持つことが求められています。 本日は、輸出管理における内部統制の要素と、企業が実務上整備すべき具体的なポイントをご紹介します。 内部統制の目的 まず、...

東京大学法学部及び東京大学法科大学院卒。弁護士登録後(東京弁護士会所属)、都内法律事務所で執務。都内法律事務所での執務時に、税関対応・輸出入トラブルをはじめとした通関・貿易に関する問題、労働問題等を中心に100件以上の案件に携わる。その中で、通関・貿易に関する問題についてより広く網羅的な知識を取得し、より高品質なリーガルサービスを提供したいと考え、通関・貿易関係の国家資格である通関士の資格を取得。