クラウド経由でのデータ共有は「技術提供」に該当するか? |通関士資格所有の輸出管理・税関事後調査に強い弁護士

クラウド経由でのデータ共有は「技術提供」に該当するか?

近年、クラウドストレージやオンライン共有ツールを使ったデータのやり取りが、企業や大学の現場で日常的に行われています。しかし、このようなデジタル情報の取り扱いにも、外為法に基づく輸出管理が適用されるケースが相当程度存在することをご存知でしょうか。
今回は、クラウド経由での技術・情報共有が「技術の提供」として規制対象になるのかどうかについて、ご説明いたします。

データを「国外に保存・アクセス」させる行為は技術提供に該当する可能性があります

リスト規制やキャッチオール規制の対象となる「技術」を外国に提供する行為は、原則として経済産業大臣の事前の許可が必要であることは皆さまご存じかと思います。
ここでいう「提供」には、物理的な送付だけでなく、オンライン上でのデータ共有や閲覧許可も含まれます。
たとえば次のような行為は、技術提供とみなされる可能性があります。

  • ①機微技術を含む設計データを、海外サーバー上のクラウドに保存
  • ②外国人研究者に対し、DropboxやGoogle Driveの共有リンクを送信
  • ③国外にいる技術者が日本国内のクラウド環境にアクセスして情報を閲覧

このように、「技術が国境を越える」状況があれば、技術提供に該当しうるというのが外為法の考え方であることは前提としては把握する必要があります。

アクセス先が日本でも注意が必要です

「国内のクラウドサーバーに保存しているから大丈夫」と考えてしまうケースも多いですが、外国人が日本国内にいながらアクセスする場合には、従来型の「みなし輸出」として扱われる可能性があります。
さらに、2022年の改正で導入された特定類型制度により、外国政府の影響を強く受ける人物に提供される場合も、みなし輸出とみなされる可能性が高くなっています。
つまり、技術を扱う主体・アクセス権限を持つ者の属性が鍵であり、単に保存場所や使用ツールに依存しない点が重要です。

このようなケースではご注意ください

以下は、実際に企業や大学で発生し得る典型的なリスクシナリオです。

  • ①海外の開発拠点(子会社)とGoogle Driveで回路図を共有
  • ②外国籍インターン生にCAD設計ファイルをTeamsで共有
  • ③Dropboxでの安易な技術共有

クラウド利用ルールとアクセス管理の整備の必要性

クラウド経由の技術提供リスクを抑えるためには、次のような管理体制の整備が必要です。

  • ①クラウド上で共有可能なデータの範囲を明確化
  • ②外国人ユーザーのアクセス制限を設定
  • ③アクセスログの記録・保存
  • ④技術資料を扱う部署に対する輸出管理教育の徹底
  • ⑤許可が必要となる場合の事前申請フローを整備

特に大学や研究機関では、研究データを扱う研究者自身が判断を誤るケースが多いため、部局横断的、統一的なチェック体制の導入が望まれます。

弊事務所では、組織における安全保障輸出管理体制の構築サポートや、日常的な該非判定のサポート、外部監査の実施サポート等、幅広くサポートを行っておりますので、ご関心がありましたらお気軽にお問い合わせください。

この記事の監修者

代表弁護士 有森 文昭弁護士 (東京弁護士会所属)

ARIMORI FUMIAKI

東京大学法学部及び東京大学法科大学院卒。弁護士登録後(東京弁護士会所属)、都内法律事務所で執務。都内法律事務所での執務時に、税関対応・輸出入トラブルをはじめとした通関・貿易に関する問題、労働問題等を中心に100件以上の案件に携わる。その中で、通関・貿易に関する問題についてより広く網羅的な知識を取得し、より高品質なリーガルサービスを提供したいと考え、通関・貿易関係の国家資格である通関士の資格を取得。

この記事と関連するコラム


Warning: Trying to access array offset on false in /home/replegal/fefta-fa.com/public_html/wp-content/themes/export-duties/single-column.php on line 75

Warning: Attempt to read property "slug" on null in /home/replegal/fefta-fa.com/public_html/wp-content/themes/export-duties/single-column.php on line 75

みなし輸出の概念と改正の本質

「みなし輸出」とは、簡単に言うと、外国に貨物を物理的に輸出するのではなく、日本国内で外国人に技術を提供する行為を、実質的に「輸出」と見なして規制する制度です。 2022年には、この「みなし輸出」制度に対して大幅な改正が行われました。 各企業や大学・研究機関にとっては改正への対応は非常に重要となります。 そもそも「みなし輸出」とは? 外為法では、技術提供に関する輸出規制の一環として、以下...

外為法と他法令との関係性~安全保障輸出管理の全体像を正しく理解することの重要性~

安全保障輸出管理は、単独の法律だけで完結する仕組みではありません。 中小企業や大学・研究機関が輸出管理対応を行う上で重要なのは、「外為法」だけでなく、複数の関連法令がどのように連携して機能しているかを正確に理解することです。そこで本日は、安全保障輸出管理を支える法的な枠組みの概要を、外為法を中心にご紹介します。 外為法は「輸出管理」の根幹をなす法律です 外為法(外国為替及び外国貿易法)は...

大学・研究機関における輸出管理体制の構築

近年、大学や研究機関に対しても、外為法に基づく安全保障輸出管理の強化が求められています。特に、外国人研究者の受入れや国際共同研究、研究過程におけるクラウド利用が進む中で、『学術研究と法令遵守の両立』は避けて通れない課題でしょう。 本日は、大学・研究機関における輸出管理体制の構築ポイントを、他の一般企業とは異なる実情を踏まえてご紹介いたします。 なぜ大学・研究機関が外為法の規制対象となるのか...

該非判定書の作成方法と保存義務 ― 形式に加えて『実質』も問われる

外為法に基づく輸出管理では、貨物や技術がリスト規制に「該当」または「非該当」かを判断するために行う「該非判定」が全ての出発点です。そして、その判断の記録として作成する必要があるのが「該非判定書」です。 該非判定書は、税関やからの照会や経済産業省による立入検査等の際に提出を求められることもあり、自社における輸出管理の信頼性を裏付ける重要資料です。 今回は、実務で使える該非判定書の作成方法と保存義...

貨物別に見る規制品目の具体例と注意点その1~ハイテク製品編~

日本が誇る先端技術や高精度機器は、世界中から注目されており様々な分野で高い需要を誇っていますが、それらの中には軍事転用の可能性があるものも多数存在することから、外為法における規制を正確に把握することが重要です。 特に、ハイテク製品や電子機器、半導体関連技術は、リスト規制の対象となる可能性が高い分野ですので注意が必要です。 規制されやすいハイテク製品の代表例 ハイテク分野では、以下のような...